細野晴臣さんが InterFMでやってる番組『DAISY HOLIDAY! 』のテイ・トウワさん、砂原良徳さん出演回を文字起こししています。3回ほどに分けると思いますが、1回目は下のリンクから読めます。現在の音は、立体的にデザインされた音で、左右の広がりが凄いという話がされています。これ、わかりやすい例を出します。
ビートルズ『Come Together』の2009年リマスターと今年アップされたMVの音。別に2009年版の音が悪いわけじゃない、これもいいですよね。で、ギターがどこで鳴ってて、ドラムがどこで鳴ってて、という感じで聴いていきます。頭の中で音像をイメージするんです。全体的にはボーカルを中心にして真ん中に音が集まってますよね。新しいのはもっと広がって聴こえませんか? 耳で聴いてるより、頭で聴いてる感じがする。
まず一つ一つの楽器を聞き分けられるよになること。そして、それぞれの音の質感を感じられるようになること。その辺りが意識できるようになれば、音楽が立体的に聴こえるようになるはず。音像が立ち上がる。で、その技術はこれからのミュージシャンが持っていて当然の前提となる。まあ音がわからないで威張ってるプロデューサーも沢山いるでしょうけど。
細野:でもこの音楽ってヘッドフォンすると、その世界が見えてくるじゃん。
テイ:うん、わかりますね。
砂原:で、自分のやったのを聴くと「うわっ、こんななんだ」と思うことの方が多いですね。
細野:(笑いながら)それは楽しいね。
テイ:僕もほぼ仕上げのときに初めて。シッツェンハイザー(?)とかでして。ちょっと長かったなーとか。
細野:はっはっはっは。そういうこと?
テイ:もういいや!
砂原:短いとあと、レベル入るんですよね。
テイ:そうなんですよ。短いと入れれる。ぶっこめるという。
細野:なるほど。
テイ:大きくしたヤツは特に短いこと、ディレーション気にするという。近年は。
細野:うん、うん、うん。なるほど。
テイ:あとちょっと、昔は音多かったなと。反省してる。
細野:ああー、それはね。
砂原:特に打ち込みは整理しやすいですから。効率的に、この音を出すんだったら、この音は出さなくていいとかってプログラムできるんで。生なんかよりは効率的に鳴らすことができる。
細野:うん。そうだよね。
テイ:画面で観て・・・
細野:視覚的に。
テイ:そうですね。小山田くんもそうだ。結構うちら3人・・・
砂原:縦ラインを観て、ダブってるのを消していく。
細野:なるほど。おもしれー
テイ:勝手に消しちゃったりとか。(一同笑い)。忘れてんじゃねーか、まりんとかって消す(笑)。その瞬間に何効かす。1個とか2個とか。ベースここいらないなとか。
細野:おお、細かいね。
テイ:それが音に出てないんだったらしょうがないですよね。
砂原:いや、出てると思いますけどね。出てますよ。
テイ:そうかな。
細野:うーん、勉強になるな。
テイ:いえいえ、そんな。打ち込みの神様を前にね。
細野:全然ダメよ。若い頃は、20代の頃は「10年早いから受けないよ」とか注意されたの。今、10年遅くて受けない。(一同笑い)
砂原:そんなことないと思いますけどね。
細野:いや、出遅れてんですよ。本当に。
砂原:あと打ち込みじゃなくても、生でも、音楽のジャンルとか、リズムとか、流行りもあるんですけど。それよりも音像が一番時代を象徴してる感じがするんですよね。
細野:そう。2010年代もそろそろ終わるけど、音像の時代ですよね。
砂原:そうですよね。ですから、音像が今であれば、どんだけ演奏が古くても新しい。
細野:そうなんだよ!
砂原:こないだ幸宏さんの『Saravah! 』をマスタリングしたんですけど。あれもその考え方に沿ってやったんですよね。
細野:『Saravah! 』もよかったよ! ちゃんと聴こえた。全部。
砂原:それは気にしてやりました。
テイ:あれミックスも飯尾さんがやり直して。ミックスもよかった。
細野:ミックスもよかった。
テイ:あんまりやることないって言ってたもんね。
砂原:そうですね(笑)。
細野:最近のユキヒロの中じゃ凄い好きだな。最近じゃないけどね(笑)。
砂原:聴こえがよくなった分、周りから聴こえてくるのは、こんないいアルバムだったんだって。
細野:それはリメイクって言うか、リマスターって言うか、甲斐があるよね。
テイ:『サンセット』聴きません? 細野さんのベースが聴きものという。
細野:ああ! 僕もそれね、ベースを聴いちゃったよ。好き(笑)。
砂原:全体的にベースはさっきの皿の話じゃないですけど、なるべく。
細野:うん、うん。
テイ:でも、これこそ今のクワイエット・ストームじゃないですか?
細野:そうだね。横に広がってる(笑)。
砂原:横に広げました。
細野:まりんのせいだ(笑)。
砂原:ユキヒロさんとビートニクスのツアーのときに、そういうことを話してて。ノスタルジーだけじゃなくて、今新しくやるなら新しい物としてやってほしいと伺ってたんで。じゃあ、そうしようということになったんですけど。
細野:正しいね。今、昔のを引っ張り出してきて、リマスターするのは大事だよ。YMOをそうだったし。
砂原:ちょっと前に、白黒の写真とか、フイルムとかに・・・
テイ:ああ、着色?
砂原:着色して「うわっ何だこの感覚!」ってそれにちょっと近いのがあるんですよ。
テイ:そうかもね。
細野:あるね。ドキドキとするんだよね。
テイ:10年前、20年前のリマスター技術ではできなかったものがあるもんね。
砂原:ありますね。変わってないように見えて実は、凄く変わってる。
細野:凄く変わってる。遠くから聴いてるとわかんないけど。
テイ:10年くらい前も、ヒスノイズ取るくらいで「うわっ」とか言ってましたけどね。カセットとかのね。
細野:そういう時代だったね。
テイ:今はもうちょっと音像をいじれるって言うか。
細野:そう。それがやっぱり次元が変わったけど、もう一つ思うのは、これは完成形の音像だと思って。これから先どこ行ったらいいの?って(笑)。
砂原:どうなるのかな?と思いつつやってるんですけど。
細野:そうなんだよね。
砂原:まあ、どんな物でもそうなんですけど、行くとこまで行くと言うのが全てそうなんですよ。
細野:そうだね。(笑いながら)本当だよ。人間て止まんないわ。
テイ:まりんの方が僕よりも、ミックスとか、マスタリングとか、ね? 考えてる。
砂原:気にしてはいますね。
細野:それはもうマスタリングのプロだよ。
砂原:ええ(笑)。全然そんなことはないんですけど。
テイ:僕はまりんがいるんで考えなくていいって。
細野:いいねー、僕もそうしよう。次のやつは(一同笑い)
砂原:いやいや、欲求だけですよ。こういう風に聴きたいって。
細野:おんなじ。感覚でしかないけど、例えば、2年前の音聴くと「あっこれ違う!」とかね。感覚じゃない。音の。
砂原:そうだと思います。
細野:それが凄く差があって。それで僕はドキドキしてたわけ。ワクワク、ドキドキ。何聴いてもすげーと思って。
砂原:ええ。ただ、このことって口で言い表しにくいじゃないですか?
細野:そう、そう。
砂原:ここが赤くなるのが今っぽいからもっと赤くって言う、そんな簡単なことじゃない。だから、人に言ってもなかなか伝わりにくくて。テイさんとよく言ってたのは、音圧感みたいなものはちゃんとキープしようと、META FIVEのときは言ってたり。あとは左右の広がりだったり。
細野:例えば、昔だったらコンプレッサー使うじゃない?
砂原、テイ:はい。
細野:そうすると音圧は出るけど、ヘッドフォンで聴くと揺れるの。ブーン、ブーン。今の音楽は音圧があっても、ヘッドフォンは揺れないの。
砂原:そういうこともできますね。
テイ:ですよね。
細野:その分析は昔にできてて、それが商品化されてるんでしょ。例えば、Macについてるガレージバンド。あれでさえ、そういう音になってるから。
砂原:みんな開発してる人は意識するんだと思うんですよね。今のコンプレッサーの話じゃないですけど、例えば、圧縮するとその部分は圧縮されるんで。ヘッドフォンがブルブル震えちゃうんですけど。水が圧縮される感じと、蒸気で圧縮される感じでは違うじゃないですか。
細野:なるほどね。
砂原:水だと強すぎるから、これ蒸気にしたいんだということも、イメージとしてはできるんですよね。蒸気だと圧力はあるんですけど、そんなに密閉感はなくすことはできたりとか。
細野:透明なままだよね。そう、透明感ってのはあるよね。
砂原:ありますね。湿度が高いと遠くまで景色は見えないし。色もはっきり見えないんですけど。それを視界を綺麗にすることもできたり。
細野:今のテクノロジーは、例えば iPhoneもカメラ2つ着いてるでしょ? あとで遠景をずらしたりとか。
テイ:あとでピントを変えるとか。
細野:そういうことに近いよね。(つづく)