ハノイの日本人

アイドル、ジャニーズ、サッカーなど。

作詞家 阿久悠と スター誕生! その7「みんな阿久悠チルドレンだった」

以前、阿久悠の仕事を矮小化するために出版された本を紹介しました。2009年3月に発売された『阿久悠神話解体』という本です。今回取り上げる本も酷いタイトルがつけられています。2009年1月に発売された『ヒットメーカーの寿命』です。府立図書館にあった阿久悠本です。またかと思いつつ、ここで取り上げるために借りて来ました。著者は1952年生まれの評論家です。



◉作詞家 阿久悠と スター誕生! 番外編「阿久悠神話を解体したい人たち」
http://d.hatena.ne.jp/wakita-A/20130531/1370014094


◉作詞家 阿久悠と スター誕生! 番外「アイドルは進化しますか?」
http://d.hatena.ne.jp/wakita-A/20130706/1373122421


◉日本にはなぜこんなにアイドルがたくさんいるのか?(まとめ)
http://d.hatena.ne.jp/wakita-A/20130704/1372916736



 ⇒本書は阿久悠の生涯を、音楽史の上に位置づけたり、あるいは伝記的にまとめようと意図したものではない。ただ私にとって、芸能の分野の巨人に寄り添いながら、七〇年代以降の繁栄の時代を大衆文化論として論じることは、長年の夢でもあった。
  日本の「文化」を代表する「顔」は、今やサブカルチャーと呼ばれる世界を除いては、考えられなくなった。作詞家・阿久悠は、戦後歌謡史上最大のヒットメーカーであると同時に、歌謡曲の世界に新しい地平を切り開いた「国民詩人」でもあったのだ。その彼がいかに同時代を撃ち、九〇年代にいたって、歌謡の最前線から撤退を余儀なくされたか。私はその二局面を、戦後社会の転換点としてあぶり出してみたかった。(あとがきより)


意外にもちゃんとした本でした。阿久悠の仕事をリスペクトした上で書かれた本だったのです。なんでこんな酷いタイトルにしたんでしょうね? これだと阿久悠ファンは読まないでしょう? でも、読む価値のある本だと思いました。特になかにし礼というライバルを乗り越えるために阿久悠の新機軸は考案されたという話は面白かったです。ファンの方はぜひ手に取ってみてください。さて、私が気になった箇所は以下の部分です。


 ⇒『UFO』『モンスター』『渚のシンドバッド』など、次々に繰り出されたピンク・レディーの一連のヒット曲を「テーマパーク」になぞらえた阿久悠だが、そうした独創的な歌作りも、八〇年代に入ると難しくなってくる。
  象徴的にいえば、一九八三年、東京ディズニーランドが開園し、歌の世界でしかあり得ない「テーマパーク」の夢を、「虚構の世界」に築くことが無意味になったからだ。(P226)


たしかに、阿久悠は80年代以降、70年代に大成功を収めた非日常性のエンターテイメント路線から撤退してしまいます。著者の言うように、虚構の世界を築くことが阿久悠にとって無意味化したからなのでしょう。しかし、その手法は他のプロデューサーたちによって大いに活用されました。例えば、アイドル評論家の中森明夫は『ピンク・レディーの八〇年代論』というタイトルで以下のような文章を書いています。


アイドルにっぽん

アイドルにっぽん


 ⇒八〇年代という、あれほど語られ過ぎたアイドル論の時代に、なぜ決してピンク・レディー論こそは語られることがなかったのか、今にして理解できるように思う。たとえば百恵/聖子の比較論として語られる八〇年代に主流のアイドル論にとって、ピンク・レディーをその範疇に収めるならば、たちまちにしてそれらの論理は破綻をきたす恐れがあるからだ。百恵/聖子の比較論とは、結局のところ〈結婚〉をめぐる物語として、たまたまアイドルの〈生き方〉にそのモデルを探す試みにすぎず、なんのことはない「アイドル論」の名を借りた「女性の生き方論」にほかならないからである。それに反してピンク・レディーのモデルとは、決して「生き方」といったレベルに還元されることのない、いわば、純粋に「システム論」の問題なのであって、実のところ八〇年代という時代そのものが、そうしたシステムに内属してしまっているのである。そのシステムこそが実は、アイドル論(という名の「人生論」のシュミレーション)を語らせているものの正体なのだ。


 ⇒ピンク・レディーは80年代を準備したんです。子供たちはピンク・レディーの曲を歌い踊りながら「どこへだって行ける、何にだってなれる」と欲望を肯定された。(中略)で、ピンク・レディーを踊れる世代が20代になったときの日本は、それこそ「女の時代」ですよ。松田聖子が現れ、男女雇用機会均等法が施行された。今でもアラフォーの女性たちは消費社会の先端を走っている。(中略)アイドルの世界にも、それ以降は小泉今日子中森明菜ら82年組の「ピンク・レディー・チルドレン」が続々と出て来ました。次の時代を準備したという点で、ピンク・レディーキャンディーズ山口百恵よりもはるかに重要な存在ですね。そうなったのは、それが個人的な物語に依存するものではなく、システムだったからです。(『AKB48白熱論争』P210より)


中森明夫が指摘するように、80年代を彩ったアイドルたち、82年組も、チェッカーズも、おニャン子クラブも、光GENJIも、Winkも、森高千里も、みんなピンク・レディーの影響下にあったのです。上の書籍では直接語られていませんが、AKB48だって例外ではありません。AKB48を持ち上げる書籍で、阿久悠が攻撃される理由はそのあたりにあるのでしょう。



そして、現在一番人気のあるアイドル・グループ、ももいろクローバーZ に至っては確信犯的にピンクレディーをモデルにしています。だって、グループ名が「ピンクレディー」+「ジャニーズ(フォーリーブス)」ですからね。日本アイドル史の総決算として登場したのが、ももクロってことでしょう。やっぱり、一度はちゃんとライブを見ておきたいなー(おわり)