ハノイの日本人

アイドル、ジャニーズ、サッカーなど。

ジャニ友、HAL さん12月。前編

フィギュアスケートのグランプリ・ファイナルが行われている中、HAL さんに現在の状況を解説していただきました。まずは女子からです。真央ちゃんが好成績を上げているのですが、どうも様子がおかしい。いつも物議をかもす採点について詳しく教えていただきます。まずはジャニーズの話から。



——少し前、HALさんから 山田涼介のソロデビューについて情報をいただきました。カップリングにKinKi Kidsの名曲『愛のかたまり』が収録されるとのこと。
HAL:『愛のかたまり』ですが山田君はデビューシングルの通常盤のカップリングに収録してくれるみたいですね。
光一君のソロコンの福岡公演で光一君自身からも告知がありました。山田君からカバーさせてほしいとメールが来て、二人で「どうぞ。どうぞ」と快諾したそうです。


◉Hey!Say!JUMPの山田涼介のソロ・デビュー・シングル
http://tower.jp/article/feature_item/2012/11/21/0704


——この曲は『ザ少年倶楽部』でも、たくさん歌われて来た曲ですよね。山田君にもあいそうです。
HAL:この件でツイッターのタイムラインを眺めていたら、山田君は以前からこの曲が大好きで歌いたいとずっと言ってくれてたみたいですね。KinKiの曲だってことを知らない若いグループのファンの子たちにも良曲だと人気があるみたいで嬉しいです。
本人たちの自作曲だというと、ファンはそれだけで贔屓目に評価してしまうものですがそういうフィルターを通さないほかのグループのファンにも純粋に曲そのものを評価してもらえてるなんて自分のことのように誇らしいw


http://www.youtube.com/watch?v=KXLeoF-M7lY
http://www.youtube.com/watch?v=2pWflQyDS0A


——大御所作家の作品が歌い継がれることはあっても、自作曲が引き継がれるのは野村義男の『日本よいとこ摩訶不思議』以来でしょうか?
HAL:野村さんの曲は申し訳ないんですが知らなかったです。ずっとギタリストだと思ってましたので、野村さんが元ジャニーズだと知った時は驚きました。



——たのきんトリオを知らなかったとは意外ですね。
HAL:当時テレビをあまり見ない子どもだったので、特に歌番組なんて対象の範囲外でした。田原俊彦近藤真彦の存在はぼんやり知ってましたけど、野村さんのことは本当に知らなくて、数年後『LOVELOVE愛してる』か浜崎あゆみの何かの曲の時かどっちかだと思うんですけど、ギターを弾く野村さんの姿を見て「この人昔ジャニーズだったんだよ」と親に教えられていろんな意味で驚愕しました(笑)。



——いい曲多いんですよ、The Good-bye。
HAL:『愛のかたまり』はKinKiファンにとっても思い入れの深い曲なので今回のカバーについては賛否両論みたいですけど、最近 KinKi関連であまりぱっとしたニュースが無いので個人的には嬉しいお知らせでした。
ぶっちゃけシングル売れれば二人も印税の分け前が入るしなーと身もふたもない考えもあります。


——賛否両論というのは、キンキの曲のイメージと違うものになるということですか?
HAL:これもタイムライン上で見た意見ですが、KinKiファンにとって大事な曲だからこそ後輩にカバーしてもらいたくなかった。KinKiの曲なのにそれを知らない山田君ファンや他のファンに山田君の曲として認識されてしまう事が嫌だ。KinKiが歌うより山田君が歌った方がいい曲だなんて言われたくない。強い思い入れを持っているファンが多いのに、カバーの許可を出した二人はファンの思いを理解していない。とか色々でしたね。イメージと違うものになるというより、単純にKinKiの曲なのにほかの人のものになってしまうのが嫌なんですかね? 
でもクレジットに作詞堂本剛、作曲堂本光一とはっきり出るし、ほかの作家に提供していただいた曲をカバーされて、「あの曲はKinKiじゃなくて××の曲」と言われるよりは精神衛生上良さそうですが。


——キンキの2人を尊敬する山田ファンも増えるでしょうし、絶対、これはいいことですよね。どちらかと言うと、シングルがなかなか出ない Hey! Say! JUMP のファンに不満が多い気がするくらいですよ。
HAL:グループの活動が少なくて、ソロ活動ばっかりだと不満は出ますよね。その気持ちは本当によくわかります。バランスの問題だと思うんですが、これだけグループが増えてしまうとリリース時期の兼ね合いもあるだろうし、チャート1位を狙うには AKBとその姉妹グループを避けないといけないし(笑)、各レコード会社も悩ましいとは思います。


——そうなんですよねー
HAL:もちろん後輩が歌ってくれることが嬉しいとか、光一君に憧れていると日頃から公言している山田君なら大切に歌ってくれるだろうから心配ないとか、KinKiの曲を後輩グループのファンに聴いてもらえるきっかけになるかもしれない、など好意的な意見もありました。
オリジナル曲のカバーだと文句言われるなら、いっそ二人で山田君に新曲書き下ろしてあげればいいのに、とも思いました。自分たちが歌うことを前提で曲を作るのと、別の誰かに歌ってもらう事を想定して曲を作るのではまた違った曲ができそうなので、そういう機会もあればいいなと思います。
山下達郎さんのベストに『硝子の少年』のデモテープ音源が初回特典として収録されてましたけど、やはりこの曲はKinKiが歌う事を考えて作られたもので、達郎さん本人が自分で歌う為に作ったのならこういう曲調は出てこなかっただろうと、達郎さんの『硝子の少年』を聞いて思ったので。



——そうですね。だからこそ、達郎さんもまた書きたいと思っているはず。まだかなー?と思うんですけどね。
では、きょうの本題、フィギュアの話を聞かせてください。真央ちゃんが頑張ってるように思えるのですが…
HAL:浅田真央選手は本当に頑張っていますね。あらゆる面で支えだったお母さんを亡くされたことは本当につらい出来事だったと思いますが、そんなそぶりも見せずよく頑張っていると思います。ただメディアが表面上の成績だけを見て「浅田真央復活!」と煽っているのを見ると、そうでもないんじゃないかな、と水を差すようなことを思ってしまいますが…。好きな選手だとおっしゃられているのに、否定的なことを言ってしまってすみません。


——いえいえ、そういうのは気にしないでください。結果とは関係なく頑張れと思っていますから。メディア報道と違う意見が聞けるのは大変有益だと思っています。今回はネットでも否定的な意見が結構見られました。
HAL:頑張っている選手は彼女だけではないし、他の選手が結果を残している中でも、彼女だけがクローズアップして取り上げられ、他の選手はいないも同然の扱いをされているのを見ると、他の選手が気の毒だしがっかりしますね。
特定の選手にだけにフォーカスし、その選手を主役とするストーリーをつくりだし、そのストーリーに競技を当てはめて報道するのは、この国のスポーツ報道の常套手段ですが、このいわゆるスターシステムが本当に競技の為になっているかは疑問が残ります。


——テレビの視聴率がなかなか上がらない中、スターシステムが強化されてる気はしますよね。前にも真央ちゃん優遇に関するお話を聞いたんですよね。みんなが練習場の確保に苦しんでる中、スターの真央ちゃんは中京大のリンクを独占してるとか。
あと、課題としてスピードが足りないという話も聞きました。下の記事は真央ちゃんのコーチである佐藤夫妻へのインタビューです。


◉日本のメダリストのコーチたち〜佐藤夫妻〈5〉
http://hochi.yomiuri.co.jp/column/shirota/news/20120519-OHT1T00176.htm


HAL:独占というと語弊があったかもしれないですね。上記の記事で佐藤久美子コーチが「今、中京大では1人でリンクを使えて、すごくいい条件で練習してるでしょう?」と言っている通りですね。たいていの選手は混みあったリンクの中で練習してますから。今季前に羽生結弦選手が日本からカナダに拠点を変えたのもそれが一因ですし。浅田選手は一番成績を出しているんだから当然だと言われたらそれまでですけど。


——やはり、海外の方が設備が整っているんですね。
HAL:アメリカ、カナダは充実していると思います。北米はホッケーも盛んなので、観客席のあるリンクがたくさんあります。一つの施設にリンクが4面とか8面あったりします。日本だと1面が限度で、フィギュアとホッケーとショートトラックで練習時間を分けなければいけないし、一般滑走のお客さんを入れなければ経営も成り立たないしで、練習時間は制限されますし、肝心のリンクもどんどん減っている状況ですから大変ですね。


——そうか。競技専用じゃないんですね。
HAL:カナダは国営のリンクが多いし、アメリカは国際大会に出場するクラスの選手なら、滑ってくれるだけで宣伝になるからと国籍を問わずリンク代が無料なんです。
ロシアはソビエト連邦崩壊時にスケートリンクも大幅に減り、残ったリンクも氷の状態が悪かったり、虫の死骸がリンク1面に落ちているところで大会やって選手たちから文句が出たりと、ロシア選手の話を聞くと散々なんですが、ソチ五輪に向けてさすがに環境が整いだしたみたいです。


——そういう話を聞いてると、テレビでの騒ぎっぷりの割に、日本ではマイナー競技なんだとわかりますね。
HAL:下のニュースは高橋大輔選手の特集なんですが、最初にロシアの国営施設が出てきます。



——サッカーでも、ドイツに視察に行かれた方などが総合スポーツ施設の話をされたりします。規模が全然違いますよね。
それはそうとこの話、モロゾフは信成の方に能力の高さを感じていたってことなんですか?
HAL:またそんな答えにくい質問を(笑)。この件に関しては、この記事が当時の経緯を一番手短にまとめてあります。


モロゾフが再び高橋大輔の元に—— 衝撃のチーム再結成の真相とは?(田村明子)
http://number.bunshun.jp/articles/-/232362


HAL:上記の記事にある通り、五輪金が欲しいモロゾフが最終的に指名した選手が高橋選手だったということが、その質問の答えだと思います。


——記事を読むと、なんだか、恋愛関係のもつれにも似たような複雑さがありますね。でも、動画を見た感じでは、時間が経っていい距離感になった気もします。えっと、真央ちゃんの話でした。
HAL:今季はキム・ヨナ選手(韓国)が復帰表明していますし、前年度世界チャンピオンのカロリーナ・コストナー選手(イタリア)もヨーロッパ選手権からの復帰を予定しています。ただし彼女に関しては今年の夏の騒動がどう影響しているのかがわかりません。婚約者のアレックス・シュバーツァー選手(北京五輪競歩金メダリスト)がドーピング違反を告白したため、イタリア国内ではロンドン五輪そっちのけで大騒ぎになりました。婚約者であった彼女が彼のドーピング行為を知らないはずはないだろう(シュバーツァーはコストナーは無関係だと否定しています)と批判されたこともあって、精神状態がどうなっているのか、それが競技復帰にどう影響するのか未知数です。もともと決してメンタルが強いとは言えない選手です。
キムに関しては12月にグランプリファイナルとほぼ同日程で開催される NRW杯という大会に出場予定なので、そこで現時点でどれだけ技術を取り戻しているか見ることができます。続けてゴールデンスピンという大会にもエントリーしていますが、そちらでコストナーも復帰予定。彼女たちの現在の調子を見てから出ないと、3月の世界選手権の予想はできません。


——キム・ヨナが復帰するのはいいですね。盛り上がるでしょう。いい意味でもわるい意味でも(笑)。
HAL:正直日韓の因縁の対決とやらにフィギュアスケートを利用されるのはうんざりです。ナショナリズムの代理戦争はフィギュアでは旧ソ連 VS 北米を軸にたびたび巻き起こりますが、それだけでもお腹いっぱいなのに、日本までこんなことに参戦してくれなくて結構です。


——旧ソ連 VS 北米なんて構図が今でもあるんですか! それは知らなかった。それは審査がらみですか?
HAL:一番有名なのはソルトレイクシティ五輪のペア不正判定疑惑でしょうね。長野五輪ではアイスダンスバンクーバー五輪では男子シングルでもめてましたね。バンクーバー五輪だとこの記事が一番わかりやすいです。


◉プルシエンコの連覇を妨害した!? 米国人ジャッジ、疑惑のEメール
http://number.bunshun.jp/articles/-/13503
『筆者は米国に在住して20年以上がたつが、北米社会の「ロシア憎し」の感情の強さは、今でも日本人には理解しがたいほどのものだと感じることがある。対ロシアとなると、関係者と報道メディアが一丸となって「ロシアが我々よりも優れているわけはない」ということを証明しようと躍起になるのだ。ロシアと北米勢の間のフィギュアスケート判定でひと悶着起きるのは決して偶然ではない。そして、その傾向は北米での五輪開催時にいっそう強くなる』


HAL:記事を書いた田村明子さんはもともとロシア選手びいきで北米選手に厳しい人で、ロシアやユーロ側に都合の悪いことは書かない、ということを考慮に入れて読まないといけませんけど。でも表面的な成績をなぞるだけの報道に終始しがちな日本のフィギュアスケート報道において、ここまで突っ込んだ内容を書ける記者は貴重だと思います。


——これは面白い話ですね。もちろん、いいことではないですけど。
HAL:話を戻しますが、3月の世界選手権で評価が決まることを考えると、浅田選手の現状を見て、復活ともてはやすのは時期尚早だと思います。浅田選手に限らずどの選手も世界選手権にピークを持ってくるはずで、そこで2年連続6位という成績の浅田選手にはそうなってしまっただけの原因があり、しかもそれはあまり改善されているようには思えません。むしろ悪化している部分もあると思います。まだコーチ共々試行錯誤している段階で、表面的な成績だけを見て持ち上げることが彼女にとって良いことだとは思えませんね。


——あまりフィギュアを知らないものにとって、ジャンプで失敗するかどうかでしか内容を判断できないというのはありますよね。でも、悪化してるんですか?
HAL:ここまで彼女が出場した3試合を見た限りは。
まず何を持って失敗とみなすか、がフィギュアのルールの理解度によって大きく変わってきます。ルールをよく知らない視聴者が失敗とみなす一番大きなものは転倒だと思うんですが、実は転倒よりも痛い失敗がフィギュアスケートにはあります。ですがこれはある程度知識がないとわからない。


——「転倒よりも痛い失敗」というのは、どのようなものでしょう?
HAL:その前にルールについて大まかに説明します。煩雑ですがこれがわかっていないと、これから説明する事の理解が難しいので(以降の内容は2012−2013シーズンのルールに基づいて話します。ですから点数などは以前のルールとは異なっている部分もあります)。
現在、フィギュアスケートの順位は技術点(基礎点+実施点)と演技構成点を合計した総合得点によって決まります。単純に点数の高いほうが上になります(6点満点方式だった旧採点とは順位の決め方は異なります)。


——そうか、以前は審査委員の得点が6点満点で表示されていましたね。
HAL:旧採点の時は技術点と芸術点にそれぞれ6.0から減点方式で得点が決められ、さらにジャッジが順位点をつけていました。この順位点はショートプログラム1位なら0.5点、2位なら1点という風に換算され、ショートプログラムフリースケーティングの順位点の合計が一番低い選手が優勝していました。だからショートで出遅れると優勝が難しかったものですが、新採点方式になってからは順位点が廃止されたので下位からの逆転劇も普通に起こるようになりました。現在ショートの結果が出た時気にしなければならないのは、順位ではなく上位との点差です。


——たしかに、ショートで出遅れが響きというのは、よく聞いた気がします。
HAL:技術点の内訳ですが、基礎点はジャンプやスピンなど一つ一つの技に難度に応じて元から与えられている得点。実施点はその技の実際の出来栄えに与えられるものです。
基礎点はジャンプの場合は回転数が多いものほど高くなり、スピンとステップシークエンスは難度に応じてレベル1からレベル4までのレベルが判定され、レベルが高いほど基礎点も高くなります(今シーズンから新たにレベルB というのも設定されましたが、これは難しい事は何もやっていない、レベル1以下という判定です)。
例えばトリプルアクセルであれば基礎点は8.5点となり、ダブルアクセルなら基礎点は3.3点になります。
ステップシークエンスレベル1なら基礎点は1.8点、レベル4なら基礎点は3.9点が入ります。


——こうやって審査の透明性を高めてるわけですね。
HAL:そうですね。次に実施点。こちらは実施した技術要素の出来栄えをジャッジが+3〜0〜−3の7段階で評価して点数を付けていきます。
例えば一つジャンプを実施したとしてそのジャンプをジャッジが良いなと思えばプラスの評価を、悪いなと思えばマイナスの評価をつけます(何を持って「良い、悪い」とするかの基準は事前に国際スケート連盟からガイドラインが全ジャッジに提示されています)。
ややこしいのはプラス1がそのまま1点とはならなく、それぞれのジャンプの回転数や要素のレベルに比例して、+1なら何点というふうに点数対照表がある事です。点数対照表は以下のPDFファイルに示されています。


http://skatingjapan.or.jp/image_data/fck/file/Figure_ISU_Communication/communication1724J_Single&pair-2.pdf


HAL:例えばトリプルアクセルを跳んでそれをジャッジが+1と評価したら、基礎点8.5点+実施点1.0点で9.5点が点数として加算されます。
逆に転倒してしまうと問答無用で−3点の減点。なので8.5点−3.0点で5.5点しか加算されないうえ、更に転倒はプログラム全体の減点項目として−1点されてしまいますので、実質4.5点です。(プログラム全体の減点は得点発表の際、技術点、演技構成点の下に表示される減点の項目に示されます。転倒以外の減点要素は例えばタイムオーバーや小道具の使用、(アイスダンス以外は)ボーカル入り楽曲の使用などです。)


——かなり明確に示されているんですね。
HAL:ついてこられてますでしょうか?上手く説明できなくてすみません。ついてきていただけると信じて進みます。


——また、わからないとこは質問しますから。よろしくお願いします。
HAL:ジャンプの基礎点についてお話しましたが、この基礎点は技術審判の判定によって大きく変わってきます。それは「ダウングレード」というルールがあるからです。
これは例えば3回転を試みたけれど回転が足りず2回転と判定されてしまうジャンプに対して行うものです。一見した時はちゃんと3回回っているように見えても、実は離氷や着氷の時に足首で器用にぐるりと回って回転をごまかしていることがあるんです。これをチート(ごまかし)ジャンプと言います。このチートジャンプを取り締まる為に、新採点方式になって新たに導入されたのがこのダウングレードというルールで、例えば4回転トウループの基礎点は10.3点ですが、これが実際は空中で3回転しか回っていない、ということになるとトリプルトウループの点数しか与えられません。トリプルトウループの基礎点は4.1点ですから、大きな減点です。
このため一見4回転に成功したから高得点が期待できるぞ、と期待してみても実際は3回転と判定されてしまっているので、大して得点が入らず点数が伸びないという事態が発生します。一般の視聴者には見分けにくいこの失敗のお陰で、「転んでないしすごいジャンプも決めたのに、なんでこんなに点数が低いの?」という疑問が発生する訳です。


——それは審査員全員で統一されるものなのでしょうか? それとも4回転の人もいれば、3回転の人もいるって感じなんですか? ああ、基礎点が審判によって違うと言われたから、統一はされないということか?
HAL:ちょっと誤解がありますかね? 基礎点そのものの点数は統一されてすべて固定です。トリプルアクセルの基礎点が審判によっていきなり8.5点から9点になったりはしません。


——基礎点は固定。トリプルアクセルだったかどうかが審査される?
HAL:そういうことですね。トリプルアクセルとして跳んだジャンプが本当に3回転半回転していたかを審査するわけです(アクセルは前向きに踏み切るため、後ろ向きに踏み切るほかのジャンプと違って、回転が半回転多くなります)。


——なるほど、わかってきました。
HAL:フィギュアスケートのジャッジは技術審判と演技審判に分けられます。
基礎点を決定するジャンプの回転数やレベルの難度は技術審判3人が判定します。演技審判9人は技術要素の実施点やプログラム全体を評価する演技構成点をつけます。
技術審判はテクニカル・スペシャリスト、アシスタント・テクニカル・スペシャリスト、テクニカル・コントローラーの3人(現役のコーチまたはプロスケーターでないと技術審判の資格は取れず、また国際大会では全員国籍は違うことが条件になっています)で構成されていまして、回転数や難度の判定はこの3人による合議制で決定されます。人によって「回転が足りている。いない」で意見が分かれた場合は2対1の多数決で決定。ダウングレードの判定にはズームアップできるスロー映像を用い、判定に対して意見が分かれる場合は選手の演技終了後に何度も見直して審議されます。得点表示まで時間がかかっているときはたいていこのダウングレードの判定でもめているときなので、ルールがわかっている観客は「ああこれはもしかしたらこの選手の点数は思ったほど伸びないかもね」と覚悟することができます(笑)。技術審判全員が判定に迷うものは「疑わしいものは白」として選手有利なように判定してくれているそうですが。


——やっぱりスローの映像を見ないとわからないのもありますよね。
HAL:ただ注意してほしいのが、我々が見ている演技映像はテレビ局のカメラで撮影されたもので、ジャッジが判定に使用している映像ではないんです。そしてこのジャッジカメラは固定されているので、このカメラから見えにくい位置で苦手なジャンプを跳んで、回転不足やその他のくせをごまかすようなことをしている選手もいます。ところがテレビ局のカメラだとジャッジに見逃された回転不足がはっきりわかってしまったりして、「なんでこれが見逃されているんだ!」とクレームをつけられる原因になっています。逆にある角度から見ると回転不足に見えたものが、別の角度から見ると回転が足りていた、なんてこともざらにあります。
だったらジャッジ用のカメラを増やせばいいという話になるんですが、増やさない理由は国際スケート連盟曰く「高いカメラを買う予算が無い」だそうです。競技の根幹に関わる話ですから、そこは無理をしてでもそろえるべきだと思うんですけど。
ただあまりにも回転不足が目立つ選手は技術審判も最初から警戒していますから、そういう選手は不幸なことに毎回厳しくチェックされます。


——予算でカメラが買えないというのは寂しいですね。スポンサーをつければいいと思うんですけど。
HAL:ついているはずなんですけどね…。ただ国際スケート連盟はフィギュアだけではなく、スピードスケートやショートトラックも統括しているので、3部門も抱えていると、予算配分には苦労するのかもしれません。


——ああ、スピード・スケートなども一緒なんですね。そうか、そうか。
HAL:話を戻します。さらに矛盾に感じるのは、4回転トウループを跳んで完璧に回りきったけど着氷で転倒した場合は、基礎点10.3点から実施点3点が引かれ合計7.3点が入りますが、4回転トウループを跳んでダウングレード判定された場合はトリプルトウループの基礎点4点しか入らず、さらに回転不足ということは減点対象でもあるので、実施点から−1〜−3の減点をされますから、実質入る点数は約3点〜1点ということになってしまいます。
こうなると転倒した方が点数が多く入るわけです。一時期4回転に挑戦する男子選手のファンの間では「回転不足で降りてくるな!それくらいなら回りきってこけろ!」が共通認識になっていました。
さらに転倒の上それが回転不足でダウングレード判定になると、実施点で減点される上に、プログラム全体からも減点されますから、トリプルトウループの基礎点3.0点から実施点−2.1点が引かれさらに−1点減点で、点数が入らず実質−0.1点の減点です。
だったら最初からトリプルトウループをきれいに跳んで実施点の加点を狙った方が賢い訳で、このダウングレードというルールは、バンクーバー五輪で大論争を巻き起こした男子の4回転回避の風潮の要因になりました。


——試行錯誤の段階だったのでしょうね。
HAL:これでは厳しすぎるという事で2010−2011シーズンからはダウングレードより軽い減点としてアンダーローテッド判定が導入されました。これはダウングレードするほど回転不足なわけではないけれど、でも完璧に回りきっているわけでもないジャンプに適用されます。4回転トウループのアンダーローテッド判定なら中間点として7.2点が加算されます。このルールの導入も要因の一つになって随分4回転に挑戦する選手が増えました。


——採点基準が競技の内容に大きく影響する。
HAL:そうですね。特に男子は劇的に変わりました。今の男子は4回転が必須の状況になっていますから。4回転を跳ばなければ評価されない、「空中戦」と呼ばれたソルトレイクシティ五輪前後の男子の状況が復活しました。もうそれ以上にハイレベルになっているかも。
もう一つ、転倒より痛い失敗がジャンプのすっぽ抜け。これはフィギュアでは「パンク」とか「ポップ」とか「抜け」と言われるのですが、3回転を跳ぼうとして2回転や1回転になってしまうものですね。実は点数としてはこれが一番痛い失敗です。例えばトリプルアクセルを跳べば8.5点の基礎点が入りますが、これがシングルアクセルだと1.1点しかもらえません。プログラムで跳べるジャンプの数は制限がありますから、その制限を超えて跳びなおすこともできないため、7点近い点数を失うことになります。
転倒しても3Aなら基礎点8.5点から実施点−3点と減点−1点が引かれ4.5点はもらえますから、パンクするよりずっとマシな状況です。


——そうなんですか。ジャンプのすっぽ抜けが一番痛いんですか。となると、、、
HAL:さてここからがようやく本題です。
浅田選手の今季のフリーで予定しているジャンプ構成と昨季やろうとしていたジャンプ構成を比べてみます。(ジャンプの種類、基礎点の順に並んでいます。後半のジャンプには1.1倍の係数がかかり、小数点2以下は切り捨てで計算してます。)


◉昨季
トリプルアクセル 8.5点
トリプルフリップダブルループ 7.1点
トリプルルッツ 6.0点
(後半)
ダブルアクセルトリプルトウループ 8.1点
トリプルフリップダブルループダブルループ 9.8点
トリプルサルコウ 4.6点
トリプルループ 5.6点
ジャンプ基礎点合計 49.7点


◉今季
トリプルループ 5.1点
ダブルアクセルトリプルトウループ 7.4点
トリプルフリップ 5.3点
トリプルルッツ 6.0点
トリプルサルコウ 4.2点
(後半)
トリプルループダブルループ 7.6点
トリプルフリップダブルループダブルループ 9.8点
ジャンプ基礎点合計45.4点


HAL:今季、浅田選手がフリーの構成からトリプルアクセルをいったん外したことが、シーズン当初大きく報道されました。しかしそれ以外にも大きく変更しているところがあります。まずこの中でも一番の大技といえるダブルアクセルトリプルトウループを後半から前半に持ってきています。
女子のフリーでのジャンプは7回までですが、昨季は前半にジャンプを3回、後半に4回だったのが、今季は前半に5回、後半に2回とかなり構成を落としています。ほとんどの女子選手が前半3回後半4回なのを考えると異例といってもいいと思います。


——やはり、ジャンプは疲れる後半にやる方が難しいんですか?
HAL:フィギュアスケートは1度の演技で大体3000メートルを全力疾走するのと同じくらいの体力を消耗するそうです。ですから疲れてくる後半のほうがジャンプを成功させるのは難しいです。そのためプログラム後半のジャンプには基礎点に1.1倍の係数がかかります。いわゆるボーナス点ですね。
昨季の構成ではトリプルアクセルも成功せず、ほかのジャンプもミスが目立ったことを考えると、ジャンプ構成の難度を落とすのは、ほかの要素でも点が稼げる浅田選手としては妥当な作戦なのかもしれません。問題なのはここまで難度を下げてもなお、ジャンプにミスが目立つことです。


——一見、好成績に見える最近の大会のことですね?
HAL:そうです。浅田選手はここまでジャパン・オープン、グランプリシリーズ中国杯NHK杯の3つの国際大会に出場しました。結果サイトからはそれぞれの大会ごとに点数と順位の表だけでなく、Judges Scoresと言ってジャッジがどういう判定をしたのかが一覧できる得点詳細が記載されたPDFファイルも掲載されています。


◉ジャパン・オープン
http://www.jsfresults.com/InterNational/2012-2013/jo/index.htm
中国杯
http://www.isuresults.com/results/gpchn2012/


——ああ、審査員によって点数にバラつきがありますね。
HAL:基礎点は固定ですが、実施点と演技構成点は9人の演技審判がつけた点数の中で、一番高い点数と低い点数はカットされ、残った7人の点数を平均したものが、実際の選手の点数になります。
PDFファイルを実際ご覧いただけるとわかるのですが、専門の略記号で記載されているので、知識がなければまるで暗号です。


——「Executed Elements」のところですね。
HAL:そうです。隣のBase valueが基礎点。GOEが実施点の略です。
ざっくり解説すると、ジャパン・オープンのフリーの浅田選手は4つのジャンプがアンダーローテッド判定されています。ジャンプの記号の横についている「<」がアンダーローテッド判定の記号です。「3Lz<」ならトリプルルッツがアンダーローテッド判定されたということです。ダウングレードなら「<<」になります。
中国杯では3つがアンダーローテッド、トリプルトウループは完全に回転が足りないとしてダウングレード判定なうえ、トリプルルッツがダブルにすっぽ抜けてます。つまり回転の足りないジャンプを跳んでいるとみなされているわけです。


——なるほど。
HAL:浅田選手はもともと「アクセル・ルッツ・フリップ・ループ・サルコウトウループ(難度順)」の6種類のジャンプのうち、サルコウが非常に苦手で以前はプログラムに入れていませんでした。さらにアクセルの次に得点の高いルッツジャンプ、こちらに関して浅田選手は離氷時の踏切りが間違っていると必ずエラー判定を受けて減点されます。「Lz」というのがルッツの記号ですが、その横に「e」というアルファベットが付いていますね。これはエラー判定が出たときにつく記号です。トウループも以前から苦手で失敗する事も比較的多いジャンプです。


——真央ちゃんはジャンプが得意なイメージがありました。でも、ジャンプの中でも得意なのと不得意なのがあるわけですね。
HAL:彼女が得意としていたのはアクセルとフリップとループ。易しいとされ基礎点が低いトウループサルコウが苦手で、難しいとされるアクセル・フリップ・ループが得意というちょっと変わった選手です。


——そうなんですか。
HAL:ルッツもエラー判定が導入される前までは「得意」の認識に入っているジャンプでしたね。2005−2006シーズンにシニアに上がり、いきなりグランプリシリーズで大活躍したのは、苦手なサルコウトウループはフリーのプログラムに入れず、基礎点の高いルッツ・フリップをフリーに2回ずつ組み込み、さらにコンビネーションジャンプ(2連続3連続で跳ぶジャンプ)は全て後半に跳んで基礎点1.1倍のボーナスをもらい、ダメ押しの様にトリプルアクセルまで成功させてしまったという、ジャンプ構成の高さにありました。
ところが今では得意なはずのフリップにもアンダーローテッド判定がついています。さらに苦手意識が働くのか、ルッツとサルコウはパンクすることが多いです。コンビネーションの2番目3番目に跳ぶダブルループもアンダーローテッド判定されています。いくら疲れている後半に跳んでいるとはいえ2回転ジャンプまでこういう判定になってしまうと、ちょっと選手としては困った事態です。


——困りましたね。
HAL:何故こんなにジャンプが跳べなくなってしまったのか?
女子選手は体の軽い10代前半には難度の高いジャンプも成功できますが、第二次性徴がはじまり脂肪がついて女性らしい体に変化すると、体重が重くなりそれまでの感覚ではジャンプが跳べなくなります。体形変化後、跳べなくなったという選手は彼女に限らずたくさんいます。


——なるほど。極端に言えば、昔とは別の選手と言ってもいいくらいなんですね。
HAL:実際女子のジュニアの大会とシニアの大会のジャンプ内容を比べると、ジュニアの大会のほうが難度の高いジャンプを跳んでいる選手は多いです。身体ができてくる20代前半がピークの男子の場合はシニアの方が当然ジャンプのレベルも高いですけれど、女子はそうとは限りません。


——そうかー それは大変ですね。
HAL:次にルッツのエラーに代表されるジャンプの癖。今の彼女のジャンプの基礎を固めたのは、伊藤みどり選手を指導した山田満知子コーチですが、彼女の指導方針は誤解を恐れず言ってしまえば「その子の癖を直してジャンプを嫌いにさせてしまうくらいなら、癖だらけでも楽しくジャンプを跳べればいい」というもので、その結果、彼女の門下生のジャンプは癖だらけです。


——サッカーでもそういう指導をするコーチがいますね。もっとも、サッカーの場合は11人でプレーするので、スペシャリストが必要とされる面もあるので成功する選手もいるわけですが。
HAL:得意分野を伸ばすというのは悪い事ではないんですけどね。
浅田選手はルッツのエラーに加え、トウループを跳ぶときトウ(スケート靴の刃の先端のギザギザの形状部分)を前についてしまうトウアクセル(これは大分修正されました)という癖に、左足で踏み切らなければならないサルコウを右足で踏み切ろうとする、フリップ、ルッツの時にトウではなくスケート靴の刃全体をついてしまう、前向きに踏み切らなければならないはずのアクセルの離氷で右足首をぎりぎりまでひねって体が後ろ向きになる所まで離氷しない、とたくさんの癖があり、ものによってはこの時点で回転不足判定をとられてしまいますし、取られなくても実施点での減点対象になります。


——かなり問題の根は深いようですね。
HAL:これらは本来10代前半のうちに直しておくべきものなのですが、山田コーチは上記の指導方針から修正を行いませんでした。もっとも当時はそれでも良かったので直す必要性を感じなかったともいえますが、新採点導入後これらの癖(浅田選手以外の選手でも見られるものです)は徐々に厳しくみられるようになりました。
難しいジャンプを跳んでいるんだから癖があってもいいじゃないか、という意見もあるとは思いますが、それでは癖がなく正しい方法でジャンプを跳んでいる選手たちが報われません。


——まあ、山田コーチの伸び伸びやらせる指導が、真央ちゃんをスターにしたとも言えるかもしれないですね。でも、それでは大人のスターにはなれない。
HAL:同じ山田コーチに師事していた伊藤みどり選手は本当に規格外の天才だったんだなと思います。
ともかく回転不足を取られればそれだけジャンプの得点は低くなってしまいます。それでもある程度の技術点が稼げるのは他の要素で稼いでいるからです。
中国杯の得点詳細を見ると、スピン3つでレベル4を取りステップシークエンスはレベル3判定でしたが実施点でほとんどのジャッジが+3をつけて、ほぼ最高の評価を受けています。もともと彼女は身体が柔らかくスピンもレベルのとりやすい難しいポジションが取れますし、ステップも難しいターンやステップを数多くこなしているのが評価されているようです。


——それで高得点だったんですね。
HAL:さらに演技構成点の高さ。下記は今季グランプリシリーズに出場し、ファイナルに進んだ6選手のグランプリシリーズで一番高い総合点を出した大会のフリーの技術点と演技構成点をそれぞれ順位付けしたものです。大会によって気前よく点数が出る大会と、渋い大会がありますので、本当は同大会以外での点数比較はあまり意味がないのですが、まあ参考として考えてください。


◉技術点
1位 鈴木明子:64.51点(NHK杯
2位 エリザヴェータ・トゥクタミシェワ:63.88点(フランス杯)
3位 アシュリー・ワグナー:63.83点(スケートアメリカ
4位 ユリア・リプニツカヤ:58.72点(フランス杯)
5位 キーラ・コルピ:56.12点(ロシア杯)
6位 浅田真央:54.53点(中国杯


演技構成点
1位 浅田真央:64.34点(中国杯
2位 アシュリー・ワグナー:63.93点(スケートアメリカ
3位 鈴木明子:62.11点(NHK杯
4位 キーラ・コルピ:60.52点(ロシア杯)
5位 エリザヴェータ・トゥクタミシェワ:57.48点(フランス杯)
6位 ユリア・リプニツカヤ:57.04点(フランス杯)


HAL:他の選手の技術点と演技構成点を比較してみると、大体同じくらいの点数か、差があっても5点前後くらいですが、浅田選手は技術点よりも10点近く演技構成点が高いです。ちなみにNHK杯フリーでの浅田選手の点数は技術点52.78点で演技構成点は64.54点です。
演技構成点が高いのは今季だけでなく昨季も同様でした。世界選手権はフリー24名中浅田選手の技術点は45.01点で15位でしたが、演技構成点は60.02点で2位。このおかげで総合6位に踏みとどまりました。


http://www.isuresults.com/results/wc2012/


HAL:彼女がいかに演技構成点で高い得点を得られる選手かお分かりいただけたでしょうか? これで技術点が取れるようになったら彼女にはどれだけの点数が出るかわかりません。


——それはそうなんですけど、これは真央ちゃんが凄いから演技構成点が高いのか、それとも、無理して演技構成点を上げたために技術が追いつかず技術点が下がっているのか?
HAL:演技構成点は「スケート技術」、「要素間のつなぎ」、「演技・要素遂行力」、「振付け」、「音楽との調和」の5つの項目(各10点満点)で構成されていますが、このうち「スケート技術」と「要素間のつなぎ」は完全に技術項目です。芸術面を評価するのは後半の3項目ですが、第一項目の「スケート技術」が評価されない選手は、どれだけ独創的で感動的なパフォーマンスをしても、肝心のスケートが滑っていないということで、それほど演技構成点も伸びない傾向があります。


——でも、真央ちゃんの場合は、演技構成点は高い。
HAL:それだけスケート技術が高い、と評価されているのでしょう。でもそれはジャンプの成功と違って、一般視聴者にはわかりにくい部分です。
下の動画は女子でスケーティングが上手いと言われている3選手です。まずは世界一スケーティングが上手いと評されている佐藤有香さん。氷を押さなくても自然に滑り一蹴りでどこまでも進んでいくことができる選手です。



——すごくなめらかな動きですね。
HAL:荒川静香さんはスケールの大きな滑りが魅力でした。やはり一蹴りの滑走距離が長く、リンクの使い方が大きい。MIF(ムーヴズ・イン・ザ・フィールドの略。一つのポジションを取ったままで氷の上をある一定の距離移動する技術。イナバウアーやスパイラルなど)での滑走距離の長さとスピードも特筆すべきものがあります。彼女の象徴的な技であるイナバウアー、これをやっているのは時間にして5秒もないのですが、その秒数で縦60メートルの長さのリンクを端から端まで滑り切ってしまいます。



HAL:コストナーは滑り始めてすぐにトップスピードに乗れる選手です。リンクの壁に注目すると尋常ではないスピードで滑っているのがよくわかります。



HAL:大体の目安ですが各項目7点台が出たらトップ選手レベル、8点台が出たらトップ選手の中でもさらにハイレベル、9点台が出たら非常に優れている、という認識でいいと思います。
現役の男女シングルの選手で今のところ9点台が出たことがあるのは男子の高橋大輔選手とパトリック・チャン選手(カナダ)ですが、彼らはスピードが速くディープエッジ(スケート靴の刃の傾斜が深い事。別競技ですがショートトラックで選手がコーナーを回る時にものすごく傾いているのを見て頂けるとわかりやすいかも。あれがディープエッジの極端な例です)で、ステップやターンのエッジワークも多彩で正確。リンクを隅々まで広く使い、複雑な軌道のプログラムを最後までスピードを落とさず滑りきることができるため納得できるものがあります。


——高橋選手の演技は本当に美しいと思います。で真央ちゃんはどうなんですか?
HAL:山田コーチのもとを離れて、アメリカ在住のラファエル・アルトゥニアンコーチについていた時代(2006−2008シーズン)は、スケーティングの練習に取り組んでいた甲斐もあり、氷に対する摩擦が本当に少なくて、膝の柔らかさがうまく使えているなあと思いました。
その後、アルトゥニアンから離れてタチアナ・タラソワコーチに師事しますが、ロシア在住で病身だったタラソワが来日して指導する期間はごくわずかで、バンクーバー五輪前の浅田選手は実質コーチ不在の状態が長かったんです。その時のスケーティングは一言でいえば「重くなった」という感じです。一蹴りの伸びがなくスピードも無かったし、さらに頭が上下動するのも気になりました。上手い選手は頭の位置が動かないです。
これらの問題点は2010−2011シーズンに佐藤有香さんのご両親である佐藤信夫・久美子コーチ夫妻に師事するようになってから、大分改善がされました。


——逆に言うと、そんな状態でバンクーバー五輪の銀メダルというのは凄い。ちゃんと技術指導を受けていれば、、、と思わずにいれないですね。
HAL:このときはグランプリシリーズがぼろぼろでファイナルにも進出できず、全日本後、同じ五輪代表の鈴木明子選手を指導していた長久保裕コーチら、日本のコーチ陣を総動員して技術の修正をしてもらったんです。五輪後に連盟関係者でソルトレイクシティ五輪代表の竹内洋輔さんのスポーツ紙のコラムでは「この銀は日本スケート連盟の総力を結集して取ったメダル」と書かれていました。高橋選手の銅が「連盟の手柄ではなくチーム高橋の成果」と読売新聞で書かれたのと対照的ですね。その長久保コーチによると浅田選手は「基礎のちょっと上ができてない」だそうです。


——そうだ。以前、メールでその話は聞いていましたね。
HAL:スケート技術を磨けば、たとえばこれまで3歩で滑った距離を1歩で行くことができ、その分だけ体力消費を抑えられ、ほかの技術要素に体力を使うことができて、ジャンプやスピンなどの成功率もあがるはずなんです。
チャンのように「要素間のつなぎ」、英語でトランジッションと呼ばれますが、ジャンプなどの要素の前後を単に滑走するのではなく、ステップやターン、MIFなどでつないでいくことを指しますが、これを詰め込み過ぎて逆にジャンプを失敗してしまう、という例もありますけれど。


——・・・・
HAL:浅田選手はディープエッジを使える選手ではないし、リンクを滑る軌道もわりと直線的で、トランジッションもチャンほど詰め込んでいませんし(チャンに比べたら誰だってそこまで詰め込んでない、になるんですが)、スピードがトップ選手としてはそれほどないのも課題だと指摘されるのですが、そこまで演技構成点に響いてはいませんね。彼女のエッジワークは確かに自然だし、膝の柔らかさを生かしてターンなどの切り返しもスムーズで無駄な力みがなく、そのあたりが評価されているんだとは思うんですが…。


——思うんですが… なかなか言いにくいことなんですね。すみません。
HAL:高橋選手やチャンもジャンプをミスしてもそれほど演技構成点が下がらず表彰台に上がり続ける選手なので、それを批判する人もいます。でも見ていて本人比であまり滑っていないな、スピードが無いなと感じた時は、やはり演技構成点も若干下がります。特に今季は失敗が多いと、5項目のうち「演技・要素遂行力」の点数が彼らであっても低くつけられているのですが、浅田選手にはあまりその影響は見られないですね。
なぜこれほど高い演技構成点が浅田選手には出るのか、そのことを中国杯の後にテレビ朝日のアナウンサーが、ゲストで来ていた佐野稔さん(日本スケート連盟理事、1978年世界選手権男子銅メダリスト)に聞いていたのですが、佐野さんの答えは「真央ちゃんの笑顔は世界中を幸せにするから!」でした。真面目に解説しろ(笑)。


——サッカーで言うと、佐野さんが松木安太郎のポジションですね(笑)。
HAL:悪い人じゃないんですけどね…。ロシアでは割と信憑性の高い記者から浅田選手の点数については皮肉った記事が出てます。


http://winter.sport-express.ru/figureskating/reviews/25922/


——これはどういった内容なのでしょう?
HAL:ロシア語記事を英語翻訳してさらに和訳したものですから正確な翻訳とは言えませんが、記事の3段落目の10行目は「That it has no speed Carolina Kostner and musical finesse Yuna Kim, and traditionally high second estimate only a tribute to past services. :(中国杯での浅田選手の演技構成点について)カロリーナ・コストナーのようなスピードやキム・ヨナのような音楽的技巧の無い浅田に高い演技構成点が出るのは、彼女の過去の実績に対する貢物に過ぎない」と訳されます。


——ああ、結構はっきりと採点がおかしいと言ってるんですね。
HAL:演技構成点が実績を反映する、というのは暗黙の了解的なところもあるので、はっきりと採点がおかしい、と断言したつもりは記者にはないかもしれません。まったく無名の選手より知名度の高い選手の得点のほうが高く出る、というのはフィギュアスケートに限らずどの採点競技でも共通の認識ですし、そのために日ごろから安定した演技をして少しでも高い順位を取っておくことが必要です。
このあたりのことはNHKの刈屋アナウンサーのこの対談でも言及されていますね。シンクロナイズドスイミングの採点に関しての話です。


◉教えて、刈屋さん!
http://www.1101.com/kariya_2008/2008-08-06.html
『完全に自分だけの価値観で「絶対にこっちが上だ」と自信をもってつねに判断できる人は、そうはいないんです。かならず、「大丈夫かな」という不安がある。そうなったときに何を基準にするかというと、やはり、それまでの実績なんですよ。どの大会で、どんな点数を出したか』


HAL:この記事、井村コーチの戦略や駆け引きの仕方が面白くて、とても参考になります。この前の記事の体操の話も面白かった。
この記事にリンクされているフィギュアスケート演技構成点についての話も、一つの見方として参考になると思います。内容はトリノ五輪の女子に関してですけれど。


◉オリンピックの女神はなぜ荒川静香に「キスを」したのか?
http://www.1101.com/kariya/2006-06-13.html


HAL:話を戻してロシア語の記事を書いたエレーナ・バイツェホフスカヤは1976年のモントリオール五輪高飛び込みの金メダリストで競技引退後スポーツ記者に転向しています。2005年にはロシアでスポーツ・体育競技の新興に貢献した人々に贈られるニコライ・オゼロフ賞を受賞。出自の怪しい似非記者ではありませんし、今までは割と浅田選手に好意的な記事を書いていた人なだけに驚きました。
ただ、この記事は中国杯でロシアの新星ユリア・リプニツカヤ選手が浅田選手に演技構成点でリードされて負けたことに起因していますから、ロシア側の牽制で書かれた記事ともいえます。ロシアは自国の障害になる選手に対しては、さかんにネガティブな記事を発信しますから、それだけ浅田選手がロシアにとっては警戒しなければならない選手だと言う証明だともいえます。


——今でもそういうことをしてるんですね。
HAL:残念なことにロシアに限らずどこの国でも割と。ソチ五輪前になったらもっと出てくると思います。悪口言われてたら、それだけ警戒されているんだなと流しておけばいい場合が多いかと(笑)。最も忌憚なく素直に誉めてくれる場合もありますけど、あまりに持ち上げられると何か裏に意図があるんじゃないかと疑ってしまいます。
リプニツカヤはまだスケーティングに関してはジュニアの域を出ておらず、演技構成点が伸びなかったのは、浅田選手らだれかとの比べての物ではなく、彼女自身の課題としてジャッジに出された宿題の様な物です。ロシアとしてはソチ五輪女子金をなんとしてもリプニツカヤをはじめとしたロシアの選手に獲らせたいという焦りもあるでしょうが、リプニツカヤはまだ14歳。これからもっと素敵な選手になれる素質を秘めています。目先の結果を追い求めるのではなく長い目で育ててやってほしいと思いますね。




NHK杯
http://www.isuresults.com/results/gpjpn2012/


——真央ちゃんがNHK杯で優勝。しかし、今回の優勝にはネットでも非難の声が上がっていますね。教えてもらった映像を見ると、ずいぶんジャンプを飛ばしているような。。。。 そして、確かにスピードもまったくない。
HAL:今回は回転不足は一つも取られませんでしたが、ルッツ、フリップ、ループが2回転に、サルコウが1回転にパンクしましたね。スピードもなく音楽にも遅れていると思います。この演技で演技構成点は全選手1位。総合でも1位。GPSは興行目的が強いので、その時開催国のスケート連盟が勝たせたい選手が優勝することもままあります。今回もそうだと言ったら、おそらく彼女のファンから××選手だって××だったのに!××のほうがひどいのになんで真央ちゃんだけ!と怒涛の批判が来るとは思いますけど(笑)。


——でも、明らかにおかしいですよね。
HAL:「真央ちゃんは今まで不当な採点を受けて虐げられてきたのに、今回の採点だけであれこれ言われるのは可哀そう! 得点詳細を見ればこの優勝は妥当だ」という意見もあるようです。


——うーん・・・・
HAL:一つの仮説として聞いていただきたいのですが、国際スケート連盟は現在その資金の多くを日本のテレビ局からの放映権料に頼っています。日本ではない外国開催の試合でもリンクに表示される広告は日本の企業のものがほとんどです。日本でのフィギュアスケート人気が凋落し、スポンサー企業が出資してくれなくなったら、国際スケート連盟はかなり困ったことになるでしょう。今でさえ資金難でひいひい言ってる状況です。
その日本で一番多くのスポンサーが付き、メディアが最大のスターとして大きく扱っているのは浅田真央選手です。彼女を勝たせスターの価値を落とさないことは国際スケート連盟にいろいろなメリットをもたらします。実際今週末からのグランプリファイナルのスポンサーもこんな感じですし。


http://www.sochisportevents.com/en/figure-skating/competition/


——まあ、協会が資金難である以上、そこは大事なんでしょう。
HAL:でもやりすぎれば逆効果。浅田選手はショートプログラムからかなりいい点数をもらっていましたからね。彼女のショートのジャンプ構成は「ダブルアクセル 3.3点、トリプルフリップダブルループ 7.1点」(後半)「トリプルループ 5.61点」で基礎点の合計は16.01点だったのですが、その他の要素と演技構成点の高さもあって1位。
SP5位と出遅れた鈴木明子選手の予定ジャンプ構成は「トリプルトウループトリプルトウループ 8.2点、トリプルルッツ 6点」(後半)「ダブルアクセル 3.63点で」で17.83点。わずかに鈴木選手が上の構成です。
実際は鈴木選手はルッツが抜けてシングルになってしまったため6点近く損をしているのですが、仮にトリプルルッツを成功させていたとしても、浅田選手とは10点近い点差がありましたから、ショートプログラムを完璧に滑っていても浅田選手を超えることはできませんでした。
こちらはトリプルトウループトリプルトウループを成功させたショートプログラム2位の長洲未来選手(アメリカ)。トリプルトウループトリプルトウループの着氷が若干乱れるなどミスもあったので、浅田選手を超えることは彼女もできませんでした。




HAL:今季女子歴代最高を出した浅田選手のショートプログラム。ミスがあったとはいえ3−3のコンビネーションを跳んだ選手より、3−2の選手が上に来てしまうのはどうなのか? 結局は挑戦するよりも、ミスしにくい構成でミスなく滑ったほうが上に来てしまうなら、挑戦しないほうが正解じゃないのか、とまたバンクーバー五輪前後の議論に逆戻りになる採点結果ですね。その上フリーではトップ3の中で一番ミスが目立った浅田選手が優勝してしまいましたから…。


——ちょっと、やり過ぎの感ありですよね。
HAL:今回の結果に関してはさすがに海外からも疑問の声が出ています。
下記はゴールデンスケートという北米ファン中心のフィギュアスケートのファンサイトの掲示板のリンクですが、浅田選手のファンだと言っている人でも今回彼女を優勝させるべきではなかったという意見が大勢です。


◉2012 NHK Ladies Free Skate(GOLDEN SKATE)
http://www.goldenskate.com/forum/showthread.php?38911-2012-NHK-Ladies-Free-Skate


HAL:このあたりがYahoo!の優勝記事についている日本人のコメントとちがうところでしょうか(笑)。


◉浅田、4年ぶり優勝も「出来の悪さにがっかり」=NHK杯・女子FS
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121124-00000013-spnavi-spo


HAL:厳しい見方だと「Are the judges for NHK all japanese?」とか「Figure Skating is not a sport anymore.I'm afraid it might be kicked out of the Olympics.」なんてコメントも。
実際もしこれが五輪で起きたことで、争っていたのが日本の鈴木選手ではなくアメリカかカナダの選手だったら、北米メディアが「不正採点!」として煽り立てていたのは確実だと思います。この場合はどんなに得点詳細を出して採点が妥当なものだったかを説明しても、彼らは耳を貸しません。
ただひたすら浅田選手がジャンプをパンクさせたところを繰り返し放送し、ライバルの北米選手がどんなに完璧だったかを強調し、不当な採点というより採点方法そのものがおかしいと煽り立てて批判すると思います。ソルトレイクシティ五輪でロシアペアはそれをやられましたから。
少なくとも北米での浅田選手のパブリックイメージは最悪なものになると思います。そうなったとき北米メディアに追従する傾向のある日本のメディアが彼女をどう扱うか…あまり考えたくありません。


——まあ、北米でなら、逆にこのような採点にはならなかったのでしょう?
HAL:うーん、どうでしょうね。でも昨季の四大陸選手権アメリカ開催で、浅田選手を押さえてアシュリー・ワグナー選手(アメリカ)が優勝しましたね。
グランプリシリーズはそれほど注目度の高い大会ではないのですから、北米メディアも採点を疑問視しつつもそれほど騒ぎませんでした。しかし今後北米の有力選手が今回のような展開で大きな大会で浅田選手に負けたらどうなるか。
日本のメディアはほとんど注目していませんが、グランプリファイナルで浅田選手と鈴木選手のライバルとして実際に優勝を争うのは、アメリカのワグナーでしょう。



HAL:昨季の彼女の活躍によって斜陽だったアメリカでのフィギュアスケートの地位は若干回復しています。最近スケートアメリカの会場はスポンサー広告も少なく、観客もほとんどいませんでしたが、今年はアメリカのスポンサーが多く出資し観客もたくさんいました。今季ワグナーが大活躍して、注目度が高まったままソチ五輪まで行けば、北米での注目度はずいぶんと変わると思います。
ロシアからは、3人の男子五輪金メダリストを育て、今回グランプリファイナルに進出したトゥクタミシェワのコーチであるアレクセイ・ミーシンからこんなコメントが出ています。


◉Фигуристка Туктамышева обязательно поедет на Финал
http://rsport.ru/figure_skating/20121126/632822063.html
『"It's hard to fight when, for example, the Japanese athlete Mao Asada, performed two triple jumps in the free program at the home Grand Prix, gets high marks and ranks first - said Mishin. :「たとえば、日本の浅田真央がホームであるグランプリ大会で、フリーの2つのジャンプ(実際は3つ)で高いスコアを得て1位となるような場合、戦うのは非常に難しい。」とミーシンは答えた。』


HAL:まあ仮にこの優勝が妥当ではなかったとしても悪いのは選手ではなくジャッジです。本人を責めるのはお門違い。点数をつけたジャッジがどうしてこのような結果になったのか、表に出てきて説明するのが本来なら筋でしょう。
でもそんなことより深刻なのがここまでショートで大量のリードをもらって、比較的楽な気持ちで臨めたはずのフリーでこれだけジャンプがすっぽ抜けてしまうこと。
しかもほかの選手のジャンプ構成はフリー前半に3つで後半4つがほとんどですけど、浅田選手は前半に5つジャンプを集中させているので、それほどミスしにくい構成のはずなんですが…。
なぜここまでミスが出たかを佐藤信夫コーチはこう説明しています。


◉NHK杯優勝の浅田真央。フリー失速にも取り戻した自信
http://sportiva.shueisha.co.jp/clm/othersports/2012/11/26/post_164/
『スピードに乗ったまま大きく立派なジャンプを跳ぶようにしようと努力していますが、過去からの習慣で、スピードを殺して何とかまとめようとして回転が不足ぎみの状態で降りてくるので、それだけは絶対にしないように、何とかクリアなものにしていきたいです。ただ、この課題を克服するにはまだまだ道半ばかなと思っています。スピードが出れば出るほどちょっとした狂いが表面化してきますから、スピードを何とかしようと無理に頑張らなければいけないという心理的な影響からミスが出て、ジャンプで俗にいうパンクという状態(不発)につながってしまう。自分で感覚的には分かっているつもりでも、自分で自分に裏切られることがあるので、もう少し繰り返し、繰り返しの練習が必要だと思います』


——コーチは課題をしっかり認識してる。そして、その道は険しいと。
HAL:ジュニア時代から浅田選手は自分の身体能力だけでジャンプを跳んでいました。その場跳びのジャンプです。それでも回って降りてこられるのは、ジャンプの回転軸の作り方が天才的にうまいことの証明でもあります。ただその場跳びのジャンプはフィギュアスケートでは評価されないんですよね。
なぜならフィギュアスケートは氷の上を滑る競技だから。陸上でジャンプの高さを競う競技じゃないんです。氷の上を滑りそのスピードを利用して幅と高さのあるジャンプを跳ぶことが求められています。
ちなみにこの高さと幅が最もうまく調和して跳んでいたのは伊藤みどり選手だそうです。彼女と浅田選手のトリプルアクセルの比較動画を見ると違いがよくわかります(作成者の意図とは異なってますが)。



——たしかに、違いますね。その幅というのは気にしたことがなかったですが、重要なんですか?
HAL:重要ですね。ジャンプの実施点の加点基準でもあります。これは会場で直接見ないとわからないことですが、やはり幅のあるジャンプはそれだけで美しいですし、スケート技術が高い証拠でもあります。


——なるほどー
HAL:その場跳びで高く跳び上がって高速回転をする浅田選手のジャンプには実施点で加点がつきにくかった。それに体形変化で体が重くなれば高く跳び上がることも難しくなり、その結果回転不足で降りてきてしまう。
これをスピードを出して跳ぶジャンプに変えようと取り組んでいるのですが、スピードを出してジャンプするのは難しく、正しい踏切の仕方で跳ばないと失敗につながります。でも浅田選手はその踏切にも癖がある。これを治すのは22歳の今から新しいジャンプを覚えるのと同じことで、とても難しい事です。10代のうちならまだ修正も容易だったでしょうが、女子選手は20歳を過ぎると衰えてくる身体と戦い、技術を維持していくことが主眼になってきますから、浅田選手の進んでいる道はとても困難な道です。


——演技が終わってからの真央ちゃんの表情も冴えないものですね。本人も自分の状態を自覚しているような。。。。
HAL:にもかかわらず「強い浅田真央が戻ってきた」と早速失敗シーンは編集して報道するTBS。CM提供スポンサーに浅田選手がCMしているエアウィーブがありました。フィギュアの試合の放映権を持っているフジテレビ、テレビ朝日をはじめとした民放のフィギュアスケート関連の番組を見ていると佐藤製薬住友生命、ロッテ、ネピアなど浅田選手が出演しているCMにもたくさん出会えます。
浅田選手は個人ブランド「MaoMao」も展開していますし、いろいろなところに影響力がありますからネガティブな報道をするわけにはいかないのでしょう。


http://maimao-asada.com/maomao/
http://www.queenbag.co.jp/collection/2013_ss/maomao/index.html


——TBSですかー。AKBやボクシングの亀田を思い出しますね。
HAL:スポンサーの影響を受けないはずのNHKでも、今回の放送は結果が出る前から女子の日本選手は浅田真央選手しか出場していないかのような扱いでしたね。前年度のNHK杯優勝者で世界選手権3位の鈴木明子選手はほとんど無視されていました。
確かに浅田選手も気の毒でしょう。でもほかの選手たちはもっと気の毒です。見ていただいた方が早いので動画を置いておきます。




——たしかに、鈴木さんの演技の方がいいですね。素晴らしい。どうにも困った状況に陥ってますね。亀田やAKBだったら平気なんだろうけど、真央ちゃんはそこまで強くないだろうし。困った。
HAL:そこまで強くないと、そう思わせることができるのが、浅田陣営の作り上げた「真央ちゃん」像の得なところですね。でも彼女は外野の評価に頓着するような選手ではありませんので、ネットで何を言われようと気にすることもないし、その必要もないとは思います。技術面に関してはもう本人の努力で何とか頑張ってくれとしか言いようがないのですが、ただ彼女が今現在も本当に一生懸命練習していることだけは事実ですし、そこのところを見て彼女を応援してあげてほしいなと思います。


——大丈夫かなー 頑張ってほしいです。じゃあ、次回は男子のお話を聞かせてください。