ハノイの日本人

アイドル、ジャニーズ、サッカーなど。

ジャニ友、HAL さん12月。後編

前回は 浅田真央選手の現在の状況など、女子フィギュアについていろいろ教えていただきました。今回は先日行われたグランプリ・ファイナルの結果と、男子フィギュアの紹介をしてもらいます。その前に、最初はジャニーズの2012年から。



◉ジャニ友、HAL さん12月。前編
http://d.hatena.ne.jp/wakita-A/20121208/1354940860


——後半はジャニーズの2012年についてから聞きましょう。なにか印象に残ることはありましたか?
HAL:やっぱりKinKiのことになってしまいますけど、デビュー15周年でありながらグループ活動が全く無かったということですかね(笑)。


◉祝!デビュー15周年!! ギネス記録を持つKinKi Kidsがデビューからを振り返る
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20121214-00000304-orista-ent


——アルバム制作に時間がかかっているみたいですね。
HAL:アルバムを制作していること自体、今回の記事で初めて知りましたよ。記事にあるように焦って出すより、じっくり時間をかけて良いものを出してほしいので、そこはいくらでも待ちますけど。
多分グループとしての KinKiのファンは「15周年くらいソロじゃなくグループ中心に活動してくれるだろう」という期待を持っていた人がほとんどだと思うんですが、それは見事に裏切られたというか。
今年唯一のシングルも、光一君の舞台中という絶対プロモーションが不可能な時期にリリースで、これだけ露出がないと一般には「KinKiってまだいたの?」状態でしょうね。


——『変わったかたちの石』は今年だったか。
HAL:完全にグループファンの固定客頼みの売り方なんですが、そのくせソロ活動優先で、その固定客さえ削ろうとしているとしか思えない活動の仕方をしているとなれば、グループとしての先行きが不安です。
グループ活動をしないのが本人たちの意向なら、もうあきらめもつくんですけれど、そんな中ソロで生放送の番組に出演した光一君が「15周年なのに KinKiの活動が全くない」とグループ活動の少なさについて言及し、それに対して剛君が Johnny’s webで光一君と同じ気持ちであることを文章にして、今の状況は自分たちの本意ではないとアピールしてくれましたからね。
でもタレント自身の口から自分たちの活動のバランスの悪さを指摘する声が出ている状況自体どうなの?と疑心暗鬼です。
二人とも10代の若手ではなく30過ぎた大人ですから、一方的に事務所やレコード会社にだけ問題があるのではないかもしれませんけど、どうも蔑ろにされてる感がありますね。


——今年はジャニーズ50周年でもあったので、ジャニさん的には舞台中心に考えていたというのはあるかもですね。
HAL:実際11月に KinKiが Mステに出演するためにテレ朝にいたら、光一君の携帯にジャニーさんから電話がかかってきて、「YOU、Mステなんていいからこっち(帝国劇場)に来ちゃいなよ!」と言われたそうです。貴重なテレビ露出の機会を社長自ら奪おうとしないでください。
それに10月の堂本兄弟で、安全地帯の玉置浩二さんが以前同番組に出演した時に「KinKiのために」と即興で作った曲を完成させて披露してくれたんですが、実は今年2月の段階ですでにこの曲を事務所に送っていたにもかかわらず、何のリアクションも無かったそうで、しかもそのことが発覚したのが番組収録中で、一瞬二人の空気が凍ったという観覧者のレポートを読んだりすると、芸能界を普通の会社と同じように考えてはいけないのかもしれないですけど、今まで V6や TOKIOの曲を作ってもらったことのある玉置さんに対して(いくら以前の FNS歌謡祭で TOKIOとの共演をドタキャンしたとはいえ)この対応というのは無礼ですし、KinKi 二人の面目に泥を塗ったようなもので、どうなの…あの会社…という不安感が増大しました(笑)。



——それは恥ずかしかったでしょうね。基本的にスタッフが足りてない印象はありますよね。もしくは、高齢化が進んでいるのか。
そう言えば、マッチさんの『ざんばら』でもありましたね。川内康範先生が死んでから、そう言えば歌詞をもらってたみたいな。
HAL:あまりスタッフも定着しないみたいですね。ブラックなのか。
別にソロが嫌なわけではなく、ソロ活動を否定するわけでもないんですが、私としてはKinKiの歌声も聴きたいんですよ。もう少し供給してほしいです。
バンドとかだとソロ活動始めたら解散のフラグが立ちますし、そうじゃなくてもバンドそのものが下手すれば数年休止になることだってあるので、週1でグループでやってる番組が見られて、年に数回でも歌番組に出演して、毎年必ずコンサートがあるというのは、すごく恵まれた状況にあるとは思うんですけどね。思うんですけども…。


——でも、98年からずっと東京ドームでライブを開催してるんでしょう? これは凄いことですよ。なんか、ジャニーズにいると東京ドームって当たり前に思えて来ますけど。ライブ会場としていいか悪いかは別にして、もっと凄さをアピールしてもいいかも。
じゃあ、キンキの他では?
HAL:MAの米花剛史君の退所ですね。KinKiのバックにも光一君の舞台やコンサートにもずっとついてくれていて、無くてはならない存在になっていたので、彼の名前がいきなり消えた時はショックでした。30歳というのを節目に考えていたんでしょうけどね。デビューできる見込みもないし、ずっとこのままでいていいのか、やっぱり考えちゃいますよね。



——米花くんの退所は私も驚きました。7月末ですかね。
HAL:あれだけの身体能力とダンススキルがあってもそれだけでは生き残っていけないなんて、難しい世界だとつくづく思います。


——もちろん、ダンスの指導者とか、いろいろ道はあるでしょうけどね。他にも関西ジュニアで何人か退所しています。
HAL:だからこそ風間俊介君が朝ドラのヒロインの相手役に抜擢されたのはうれしかったですね。生田斗真君同様、俳優としてやっていけそうで喜んでます。



——映画『前橋ヴィジュアル系』はそれほどでもなかったですけど、山田涼介主演ドラマ『理想の息子』のときには存在感凄かったですよ。なにか吹っ切れた感じがあって。あと、昨年の『それでも、生きてゆく』の殺人鬼役もよかった。
純と愛』は梶原一騎『愛と誠』の男女逆バージョンという発想なんですかね。早く観たくて! 予告だけ日本にいるとき観たんですよ。
HAL:『純と愛』、批判もあるみたいですけど、何かトラブルがあっても予定調和で解決してしまいがちな朝ドラの中で、一筋縄ではいかないというか、問題が解決しないまま次の週に続いていくという展開は新鮮です。お約束パターンだからこそ安心感のあった『梅ちゃん先生』の後だと大変だろうなあと思いますけど。朝から見るなら後者の方が後を引かずに習慣で見られるから楽なんですよね。『純と愛』は朝から見るにはちょっときつい。昨年やってた『おひさま』が主人公の周りがいい人ばかり。こんないい人ばかりなんてありえない、という突っ込みがあったんですけど、その真逆を行くのが『純と愛』。性格的に問題のない人が主人公も含めて一人もいない(笑)。風間君演じる愛(いとし)君も色々な問題を抱えているんですが、同じく欠陥だらけの主人公の純といると、お互いがお互いの足りないところをどうにか補い合えて、いい感じの二人だなと思います。二人でいることに安心感がある。
風間君は「静」の芝居も上手いですねー。激しい言葉の応酬を繰り広げている役者たちの中で、ぽそっと一言いうだけでそっちに視聴者の集中力を持って行ってしまう。



◉『純と愛』脚本家スペシャル対談[前編]
http://www1.nhk.or.jp/juntoai/special/interview/interview01.html
『どちらかが病気で死ぬ、とかありがちなドラマじゃなくて、「本当にふたりが必要だ」っていう感じを出会いから別れまでやりたいって。で、「夫婦愛って何だろう?」と一生懸命考えて、せっせと企画書を書いてもさ、「もっとドラマ性が必要だ」とか言われて、なかなか通らない訳ですよ(苦笑)』


——脚本が『家政婦のミタ』の遊川和彦さんなんですよね。観たいなー。
さて、前編でも聞いたフィギュアスケートです。あのあと、グランプリ・ファイナルが行われました。女子は浅田真央が優勝、鈴木明子が3位に入りました。そして、男子は高橋大輔が初優勝、羽生結弦が2位に入りました。素晴らしい結果だったわけですが、そもそもこれはどういう位置づけの大会なんですか?
HAL:サッカーに喩えられたら一番いいんでしょうけど、あいにくそれほど詳しくないので、野球だったらオープン戦のような位置づけの大会というか。



——もっと大きな大会に見える名前ですよね。
HAL:でも歴史は浅いんですよ。今年でまだ18回目。世界選手権は1896年に初開催で2度の世界大戦による中断を挟んで今年で103回目ですから。
フィギュアスケートの国際大会で一番権威があるのは4年に1度の冬季五輪、次が毎年3月下旬に開かれる世界選手権です。ですからどの選手もまずは世界選手権代表に選ばれることを目標にしています。
世界選手権とグランプリファイナルのメダルどっちが欲しい?と聞かれて、ファイナルのメダルを選ぶ選手は皆無ですね。テレビ朝日はこの大会を世界選手権や五輪と同格の大会であるかのように放送しますが、決して同格ではありません。


——じゃあ、サッカーで言う「絶対に負けられない戦い」って煽りと同じですね。負けて大丈夫な試合でもそれやって顰蹙を買い、最近は言わなくなりましたが。
HAL:「勝つに越したことはないけど、負けてもそれで終わりじゃないよ」って感じですかね。有名選手はグランプリシリーズをスキップして1月から始まる ISU(国際スケート連盟)チャンピオンシップ(欧州選手権四大陸選手権・世界Jr.選手権・世界選手権の四大会)から参戦ということも多かったので、世界選手権でメダルを争う選手が全員揃わないという点でも、グランプリファイナルは大会の価値が低くなります。
今季もペアでは現世界チャンピオンのサフチェンコ&ソルコビー(ドイツ)が怪我でグランプリシリーズを2試合とも欠場していますし、女子の世界チャンピオンのカロリーナ・コストナー選手(イタリア)も諸般の事情からグランプリシリーズの出場をキャンセルしています。


——こういう話を知ってないと、単純に日本フィギュア王国とか思ってしまいますよね。いきなり「オリンピックでいくつ金メダル取れるか?」とか。
HAL:グランプリファイナルの結果だけでメダルの皮算用はできないですね。
ただ日本の場合は男女シングルの世界選手権代表選考条件にグランプリシリーズの成績も入っていますので、グランプリシリーズからある程度の成績を残さなければいけなくなっています。


——それほどお客さんも入ってなかったですし、広告も日本のばかりでしたね。ソチは冬期オリンピックの開催地でしたよね?
HAL:そうです。でもまだどこも工事中で、宿泊場所に指定されたホテルもひどい環境だったし、スケートリンクの氷の状態もあまり良くなかったようですね。


◉フィギュア:GPファイナル会場 「すごく解けた氷」など…五輪に向け問題山積
http://mainichi.jp/sponichi/news/20121206spn00m050004000c.html


HAL:例年ロシア開催の大会では選手を会場まで運ぶバスが遅れたり、来なかったり、練習予定時間が急に変わったのが選手に通達されていなかったり、不手際なのか故意になのか問題が起こるのが常なので、そういう意味でも今回のソチの試合に出場した選手たちにとっては良い経験になったんじゃないでしょうか(笑)。


——なかなか日本やドイツのようには行かないんですよね。
HAL:むしろ日本やドイツみたいに時間通りに規則正しくきっちりと、という国のほうが少なそうですね。荒川静香選手がトリノ五輪で金を取った時は、そういうアクシデントも五輪独特のものとして楽しもう、と思ってたらしいですけど、そういう精神状態に至るためには、ありとあらゆる事態を想定して対応できるようにしないと無理でしょうね。
観客が少ない理由なんですけど、今回のグランプリファイナルでロシア選手で確実に優勝が見込めたのがペアくらいしかなかったことも関係していると思います。
ロシアは昔からフィギュアスケート強豪国で、2006年トリノ五輪の時は女子シングル以外の3種目はすべてロシアが金。女子も銅でしたが、そこでソビエト連邦時代の強化の遺産が尽きてしまいました。2010年バンクーバー五輪では男子の銀とアイスダンスの銅だけで、ペアは五輪13連覇どころかメダルも逃し、女子もメダルにかすりもしなかった。ソ連崩壊後の環境の変化で優秀なコーチたちが国外へと流出してしまったせいもあります。


——結構、時間は経ってますが、がくっと影響がでるもんなんでしょうね。
HAL:1991年のソ連崩壊後、ロシアは日本の戦後のような経済状況だったみたいで(バナナが貴重品だったとか)、その当時スケートを始めた選手たちを、幼少期からサポートすることが難しかったようですね。


——そうか。育成年代の時期が、経済状況の悪い時期だったわけですね。
HAL:今現在は立て直しに四苦八苦している状況ですが、男子は厳しい状況ですし、女子もジュニアから有力選手が続々と出ていますが、シニアの壁にぶつかってロシアスケート連盟が期待するほどの成績が残せていないし、アイスダンスは北米勢と他欧州勢相手に苦戦。現時点で唯一世界選手権や五輪のメダルが確実視できるのはペアだけです。




——じゃあ、まずは女子から。
HAL:前回浅田選手の課題について説明しましたけど、そして今大会もその課題が改善されていたとは言い難いんですが、それでも失敗したジャンプに対する減点は最小限、決まったジャンプとスピン、ステップに対しては実施点で大量に加点されて技術点でも全選手中2位、演技構成点は断トツの1位で圧勝でした。課題が課題として機能していない感じ(笑)。
トリプルアクセルも3回転+3回転のコンビネーションジャンプも跳ばなくても、これだけの技術点を稼げると証明できましたし、課題を克服しなくても何も問題はないとジャッジからお墨付きを得たようなものですから、佐藤信夫コーチが苦労してスピードやジャンプを変えさせようとしなくてもいいんじゃないですか?
ほかの選手はノーミスで滑って初めてミス有りの浅田選手に勝てるかどうか。浅田選手と同じ試合に出るほかの選手にとっては、こういう気持ちで挑まなければいけないこと自体、ずいぶんと心理的に重圧でしょうね。


——かなり厳しいご意見をいただきました。あのー。。。前回の記事が出た後すぐに報知新聞が真央ちゃんの記事を出したでしょう? HALさんが言われていたように、昔の身体ではないことが公式に宣言されました。驚いたな。


◉真央「もう子供の体じゃない」22歳・大人宣言…フィギュア
http://news.livedoor.com/topics/detail/7217409/


HAL:この間の NHK杯なんか特にそうですけど、「浅田真央」という名前じゃない全く無名の選手が同じ演技をして、ジャッジが同じ評価をしたか、という点に尽きますね。
それは別としてこの記事内容はだれもが通る道ですね。佐藤コーチの前のタチアナ・タラソワコーチ時代にも、短期集中練習に切り替えるように言われていましたが、そのせいで不調に陥ったとして、タラソワの忠告を退けました。でも結果的にはタラソワの言うことが正しかったんじゃないかと。
日本というか世界の選手の中でも浅田選手ほど環境面でも資金面でも恵まれている選手はいないんですが、どうもそれをうまく生かし切れていない印象がありますね。




HAL:アシュリー・ワグナー選手(アメリカ)は、以前は両足着氷や回転不足が多くて、なかなか高い評価を得ることが難しかったのですが、昨季コーチを変えてから化けましたね。ショート、フリーとも安定して滑ることができるようになりました。プログラムも一瞬も「休んでいる」という感じが無くて、隙なくずっと表現していますし、ジャンプ前後のつなぎのステップの多彩さも魅力です。今回フリーでの転倒は本人も予想外といった感じでしたし、今まで見たこともない転び方で、試合後は松葉杖で移動しエキシビションも棄権していましたから心配です。1月の全米選手権までに回復が間に合って、十分練習が積めることを祈っています。アメリカは世界選手権の代表は全米選手権一発選考で、グランプリシリーズの成績は考慮されませんので、この怪我で全米で力を発揮できなかったなんてことにならないように願っています。


——こういうときは棄権した方がいいんじゃないですか? それとも興奮状態で痛みは感じてないからなんでしょうか?
HAL:アドレナリンが出ていると痛みは感じないようですね。スケート靴の刃で手を切って血まみれになっても気が付かないで最後まで演技してる選手もいます。
あまりにひどい怪我なら、今後を考えて棄権する選択肢も「あり」だと思います。実際続行できずに棄権する選手もいます。




HAL:鈴木明子選手に関しては、NHK杯からフリーのジャンプ構成を変え、少しでも減点を受けない構成にしてきたんですが、まだその配置になれていない部分がミスにつながりましたね。スピードを出してジャンプを跳ぼうとしたのも今回仇になってしまったかなあと思います。着氷で踏ん張りきれなかった。
氷の状態が良くないので、リンクを大きく使って滑ろうとした選手ほど、コントロールが大変だったと思います。


——たしかに、ミスは目につきましたけど、全体の印象は悪くなかったですよ。
HAL:彼女は昨季からショートプログラムの振付けをアンジェリカ・クリロワ(アイスダンス長野五輪銀メダリスト)にお願いしているんですが、クリロワに指導を受けるようになってから身体のラインの作り方が美しくなり、動きが全体的に洗練されましたね。この夏アメリカのデトロイトに渡って、アイスダンサーたちに混じってスケーティングを磨いた成果も出ていると思います。フリーの2度目の転倒後、わずかな助走で一気に加速してコリオグラフィック・シークエンスに入っていくところは目を見張りました。ショートでのトリプルトウループ+トリプルトウループの成功もそうですが、27歳という女子ではとっくにピークを過ぎた年齢でもこれだけできる、というのはものすごい努力のたまものでしょうし、後進の女子選手たちの本当に良いお手本になっていると思います。
これは鈴木選手と高橋選手に焦点を当てた特集ですが、若手ばかりに注目するのではなく、ベテランの頑張りもこんな風に評価してほしいです。



——選手として思い切りプレーできる期間が短いですよね。これはテレビ東京制作ですか。鈴木さんは上半身も結構筋肉質でしょ? これはバランスを考えて、筋トレとかをやってるんですか?
HAL:専門のトレーナーがいるという話は聞いたことがないですが、ある程度は皆筋トレはしていると思います。スケート靴は片足だけで2Kg ありますから、それを支える筋力は必要ですし、ジャンプを跳ぶにも背中の広背筋や下半身の大臀筋が重要な役割を果たすので、筋肉をつけていないと跳べない。
けれどつけすぎても身体が重くなってしまって、ジャンプのタイミングが狂ってしまうので、バランスは常に考えていかないといけませんけど。ボディビルダーのような筋肉は当然不要で、むしろバレリーナやダンサーのような筋肉が必要になるみたいですね。


――ああ、バレリーナの筋肉というのはわかりやすいですね。
HAL:上位3人以外で印象に残ったのは、フリー2位のエリザヴェータ・トゥクタミシェワ選手(ロシア)。体形変化の時期を迎え、さらに呼吸疾患と怪我を抱えてろくに練習できなかったにもかかわらず、フリーのジャンプ構成は一人だけ抜きんでていました。これでちゃんとスケート技術が伴ってきたら凄い選手になりますね。上体の使い方が上手く、指先から足のつま先まで美しいラインを作り、踊れる才能は素晴らしいですし、まだ15歳とはとても思えない大人びた美しさがあります。



——そして、この大会ではないですが、同じ日にキム・ヨナ選手の復活も話題になっていました。




HAL:2011年3月の世界選手権以降、競技からフェイドアウトし、1年8ケ月のブランクでどれだけ技術を取り戻せているかを注目していたんですが、いきなりショートでもフリーでも、トリプルルッツトリプルトウループと言う女子最高難度の一つであるコンビネーションジャンプを成功させてきたのには恐れ入りました。もう身体面のピークを過ぎた22歳なのにまだこれだけの技術を維持できているのは、正しい基礎技術を習得してきたからだと思います。


——私も、やっぱりきれいだなーと思いましたよ。
HAL:トウループは全盛期ほどの高さが無かったし、厳しいジャッジに当たればアンダーローテッド判定になるかもしれないと思いましたが、復帰戦でこれだけ出来ること自体たいしたものです。


——そうですよね。存在感という意味では、特にブランクを感じさせなかった。
HAL:フリーではジャンプミスがありましたが、得点源のトリプルルッツはしっかり決めました。トリプルルッツトリプルアクセルの次に高い基礎点を持っているので、これをエラー判定されない正確な踏切で跳べ、フリーで確実に2回入れられるというのはやはり強いです。
レベル認定要件が今季から厳しくなったスピンのレベル取りには苦労しているようですが、ルール改正によってレベル4が取りやすくなっているステップに関してはしっかりレベル4を取ってます。以前は女子でステップレベル4を取るのは至難の業だった事もあって、無理せずレベル3の構成で実施点での加点を得る戦略でしたが、このルールならレベル4が取れるとなったらしっかり対応してきました。
表現面ではさすがに雰囲気がまだ固いのと、今までとあまり変わり映えのしない、いつものキム・ヨナ選手らしいプログラムで、そこはちょっとつまらないなと思ってしまいましたが、復帰するなら今まで評価されていた路線をというのは自然な選択ですし、3月の世界選手権までにどれだけ内容を磨いてくるのか楽しみです。欲を言えばもう一つくらい国際大会に出場してジャッジの評価を受けた方が対策を立てやすいと思うのですが、今後は韓国選手権に出場するのみで、世界選手権に出るみたいですね。


——素晴らしいとは思うんですけど、やはり、キム・ヨナに関しても真央ちゃんと同じく得点が盛られたということはないんですか?
HAL:これが「キム・ヨナ」という名前の選手ではなく、全く無名の選手だったとしたら、と考えてみるとわかりやすいのですが、それでもある程度の点数は出ただろうな、と思います。ですがここまで高得点だったのは、やはりそれがバンクーバー五輪金メダリストに対する評価だったからなのだろう、と思いますね。


——なるほど。
HAL:フジテレビは早速このキムの点数とグランプリファイナルの浅田選手の点数を比較して、ライバル対決の煽りを開始してます。
局側としてはこの二人を取り上げて煽れば、浅田ファンから返ってくる反応が激烈だからこそ、良くも悪くも話題になって注目度が上がるので、どちらに転んでも美味しい展開とにらんだんでしょう。案の定釣られてます(笑)。


◉ジャンプで転倒キムヨナが「今季最高得点」 「浅田真央より上」報道にネットで怒り
http://news.livedoor.com/article/detail/7219969/


——いわゆる炎上マーケティングですね。でも、フジはブランドイメージの毀損が激しいので、あまり煽らない方がいいと思いますけどね。
HAL:フジの名誉がどうなろうと自業自得なので知ったことではないですが、私もあまりこういうやり方はいい気がしませんね。優勝に水を差された形になった浅田ファンが怒るのは当然だと思います。だからと言ってキム・ヨナを罵る方向に行かなくても、と思いますけど。
キムが出場したNRW杯は通称国際Bと呼ばれるクラスの大会の一つで、グランプリシリーズより格が落ちる大会です。出場した選手の顔ぶれを見てもグランプリシリーズで表彰台に上がれるレベルの選手がいなかったため、一人だけぬきんでた滑りをしたキムに高い点数が出るのはある意味当然ですから、この点数が有力選手が出る大会でも全く同じ評価になるとは限りません。


◉ Kim shows some rust, still breaks 200-point mark
http://web.icenetwork.com/news/article.jsp?ymd=20121209&content_id=40589096&vkey=ice_news


HAL:icenetworkというアメリカスケート連盟の公式サイトでのインタビュー記事ですが、キム自身は「"I was surprised about the high scores," she said. "I did not expect that, because I made mistakes and could not show everything I can do.:この高得点には驚いている。私はいくつかのミスを犯し、できることすべてを見せることができなかったので、(高い得点は)期待していなかった。」とコメントしています。常に冷静で率直な彼女らしいコメントです。


——彼女自身もナショナリズムを煽る道具にされたくないという意思が感じられますね。好感が持てます。
HAL:二人の比較と言う点では、技術点だけを見れば浅田選手のほうがジャンプの基礎点合計はわずかに上ですし、スピンのレベルの取りこぼしもないため基礎点では勝ちますが、実施点の方ではキムのほうがより質のいいジャンプを跳んでいるということで加点がたくさんつくことを考えると、技術点ではそれほど差がつきません。
演技構成点も実績で浅田選手に劣る鈴木選手やワグナーと違って、彼女は浅田選手を上回って来ていましたから、二人が同じ大会で滑って、互いにミスがなかったらどちらが上に来るかはある程度予想がつくと思います。


ーーうーん、、、
HAL:スポーツ報知では浅田とキムの比較ということで、ISUジャッジ資格を持ち各国ジャッジに顔が広い城田憲子さんがこんなことを書いています。まだネット上に記事が上がっていないので、書き写しますが…
『今のままでは、真央はヨナに勝てない。ヨナは復帰戦で、難易度の高い3回転ルッツを完璧に跳び、スピード感ある「大人」のフィギュアを見せた。一方の真央は今季、ジュニア時代の初心に戻る意味もありフリーの曲に「白鳥の湖」を選び、「子供っぽく」演じている。 残念ながら現時点で2人の差は「大人」と「子供」ほどある。では真央はどうしたら勝てるか。それにはジャンプの精度をあげるしかない。技術的には踏み切る時に姿勢が前かがみになり、頭と氷が平行に移動せずバラついているため回転不足が多くなっている。それがスピード不足にもつながっている。真央の代名詞だった3回転半や、3−3回転連続を成功させるためにも、流れの中できっちりしたジャンプが必要だ。幸い、スピンや曲のストーリーをつかむ能力とプログラムは問題ない。安藤美姫カロリーナ・コストナーら世界女王経験者などライバルもいるが、真央は立ち止まらず改善し、進化していくことが大事だ。』


——ずいぶんはっきり書かれたんですね。キム・ヨナがいることで真央ちゃんの演技も変えざるを得ないですね。どこまで頑張れるのか見守りたいです。
HAL:浅田VSキムのライバル対決というのは放送する側にとってはストーリーが作り易くておいしいのでしょうけど、また日本の報道ではソチ五輪までこの二人以外存在しないかのように扱われることが確定で、うんざりするフィギュアスケートファンは多いと思います。二人の為だけの競技じゃないし、他にも魅力的な選手がたくさんいるのに。キム自身、上記の記事で「"Japan has many very good skaters."」と言ってくれています。
二人のライバル対決の行方に私は興味がないし、女子シングルはそれがすべてだと思われてしまうのは不本意です。
正直、上の記事、曲のストーリーをつかむ能力に問題はないはずなのに、どうして「白鳥の湖」が「子供っぽく」なってしまうのか(「白鳥の湖」は子供っぽく滑っていい曲じゃないでしょう)、文章が矛盾してると思うんですけど…。そしてフリーよりショートのほうが子供っぽく思えるんですけど…。


——皮肉的な表現をされたように読めますよ。
HAL:安藤選手は浅田選手の勝利を邪魔するライバル扱いで、どうやら連盟が同じく勝利のためにバックアップしなければならない選手じゃならしい、といろいろ突っ込みどころが満載です。
まあ私は浅田選手以外の日本選手が五輪で勝つためにはどうしたらいいのか、のほうが気になりますけど。教えて城田さん!(笑)


——まあまあ(笑)。たぶん、報知から依頼されたのが、真央ちゃんについてだったんでしょう。そういう依頼はなかなか来ないんですかね。
さて、今回は男子を中心にお話を聞く予定ですが、まずはこの大会はどんな印象でしたか?
HAL:グランプリファイナルは格落ちする大会、と言っておいてなんですけど、男子に関しては今年の世界選手権メダリストの3名が全員出場していますし、この顔ぶれ+αで世界選手権も優勝争いを行うことが確実ですから、世界選手権の前哨戦としての意義は大いにありました。
2011年の世界選手権でパトリック・チャン選手(カナダ)が、他を圧倒して優勝した時は、もう彼の独走状態でソチ五輪まで行ってしまうのではないかと思いましたが、そのチャンに追い付き追い越せ状態になったことで、全体的に男子のレベルが数段階上に引き上げられました。



HAL:今の男子で優勝しようと思ったら、ショートで1回、フリーで2回の4回転をプログラムに組み込むことは必要最低条件ですし、そのうえでスピン、ステップはレベル4をそろえ、技術要素の間にはステップやターン、ムーヴズ・イン・ザ・フィールドをまんべんなく入れて、ただ滑っているだけの瞬間を極力無くし、最後までスピードを落とさないスケート技術と、身体全体を使った豊かな表現力が必要です。ジャンプだけでも表現だけでもスケート技術だけでも勝てない、本当の総合力を持った選手が求められています。


——本当にそうですね。素晴らしい演技だと思います。
HAL:今まではチャンにミスがあってもだれも彼を追い越せない、それほど別格の評価を受けてきたのですが、現在はチャンであってもミスをすればほかの選手が彼を凌駕することができる状態になってきて、ソチ五輪でだれが勝つのかは今の時点ではまったくわからないです。



HAL:今回の試合はハビエル・フェルナンデス選手(スペイン)が、フリーで4回転を3回成功させたのに優勝どころか表彰台にも乗れないなんて思いませんでしたよ。フリープログラムで4回転3度成功というのは、これまで史上4名しか成功した事のない偉業だったので、リアルタイムで見られてものすごく興奮しました。フリーは1位でしたが、ショートの出遅れが響く形になりました。


http://www.youtube.com/watch?v=qfPd29Omdug


——マンチェスター・ユナイテッド、香川のチームメイトにファビエル・エルナンデスというメキシコ人がいます。まあ、それはいいんですけど、こりゃ凄いですね。4回転と間にはコミカルな感じも挟み込んだり。
HAL:小塚崇彦選手、トリプルアクセルとフリー2度目の4回転の失敗はあったものの、ショートもフリーも1度は4回転トウループを成功させて、他の大会だったら十分表彰台に乗れるレベルの滑りだったのに。5位という順位だけを見たらたいしたことないと思われがちですが、彼も攻めの構成を貫いて、徐々にその成果を出してきていますね。




——あのー、、、背中をさすってもらてるのが非常に気になったのですが。
HAL:あはは…やっぱり気になりますよね。ジュニア時代からのお約束の儀式みたいですけど。
スケート技術では高橋大輔選手やチャンに匹敵するものを持っているのに、いまいち演技構成点が伸びきらないのは、表現面に課題を抱えているからですが、ショートでは雄大な曲想を溜めを意識して腕を動かすことで表現しようとしたり、フリーでは細かなヴァイオリンの旋律に合わせてステップを踏んだりと、色々工夫はしているので、シーズン後半に向けて完成度を上げていってほしいです。
正直に言えば、今季は佐藤コーチから離れて新しい環境でやったほうが、表現面でも一皮むけたんじゃないかと思うんですけど、人間居心地の良い環境を出ていくのって難しいですもんね。新天地でうまくいくとも限らないし。


——そして、優勝したのが高橋選手。
HAL:1位と2位の高橋選手と羽生選手に関しては、見た目にわかりやすい失敗が高橋選手の方が多かったこともあって、なんで転んだのに優勝?という意見もあるようですが、前回説明した「転倒よりすっぽ抜けの方が痛いミス」というのが今回の結果を分けました。
羽生選手は予定構成に4回転サルコウ(基礎点10.5点)を入れているのですが、それがすっぽ抜けて2回転サルコウ(基礎点1.3点)になり、基礎点だけで−9.2点損してしまいました。
一方の高橋選手は最初の4回転トウループで転倒しましたが、完全に回り切っての転倒だったので回転不足を取られず、4回転トウループの基礎点10.3点から転倒の減点−3.71点(実施点−2.71点+プログラム全体の減点−1点)だけですみました。トリプルアクセル(基礎点8.5点)は2度とも着氷でミスが出ましたが、転倒判定は取られず実施点での減点−1.58点だけで済みましたから、彼がジャンプミスで失った点数は−5.29点だけです。
ジャンプを回転しきっての転倒なら、ジャンプのすっぽ抜けよりも減点が少ないので、見た目ほど点数上は大きなダメージを受けません。




——なるほど。最初の方のあれか。
HAL:それでも羽生選手の方が技術点は上回りましたが、差がついたのは演技構成点。高橋選手が「要素のつなぎ」以外すべて9点台をそろえたのに対して、羽生選手は5項目すべてが8点台にとどまりました(8点台というのは男子トップクラスの評価なんですけどね)。
この差はなんなのか?ということですが、やはり羽生選手はスケート技術という点では小塚選手やフェルナンデスと比べても、まだトップレベルとは言い難い部分があります。このフリーは冒頭に2種類の4回転を組み込んでいるし、トリプルアクセルはすべて後半に配置してあるという非常に難度の高い構成ですが、その分体力の消費も激しく、ステップシークエンスなどではスピードが落ちてきてしまいますし、後半は演技がだんだん荒くなっている。そうなると技術要素をこなすのに精いっぱいでプログラムに自然な流れがなくなってしまいます。
ですがまだ18歳になったばかりで身体ができてくるのもまだこれからですし、スタミナが持たないのも仕方がない事です。今回は最後まで失速せずにプログラムを形にしていますし、試合を重ねるごとに経験値を増やして飛躍的に成長していますので、これほど次の試合を見るのが楽しみになる選手もいません。


——羽生選手はスター性があると思うんですよね。ジャニーズJr.にいそうな感じでしょう。濃い目の高橋選手とも雰囲気が違って。もっと注目が集まってもいいのにな。
HAL:実際に会場に足を運ぶファンの間ではすでに大人気ですよ。今年はカレンダーも発売されて好評だったみたいです。
メディアの扱いは女子の方が圧倒的に大きいですけど、男子のほうが関連書籍の売り上げはいいし、会場の集客にも貢献してますね。もともと試合まで足を運ぶ熱心なファン層は男子のファンがほとんどです。


——現場の熱気とメディアの扱いが乖離するのは、どこの分野でもありますね。
HAL:もっともテレビ局も羽生選手には注目しているみたいで、今回のグランプリファイナルも羽生選手の優勝を期待していたんだなあ、というのが各放送局の報道の仕方を見ての感想でした。
ところで羽生選手、フリーの時から体調が悪かったようで、エキシビションを欠場しました。嘔吐したりもしていたようですが原因がはっきりしていません。ロシアから日本に帰国してしばらく休養を取るようですが、ちょっと心配な状況ですね。
高橋選手は各選手ジャンプミスが続いたショートプログラムを、ただ一人まとめて首位に立ち、フリーでもジャンプミスはありましたが、最後までスピードが落ちるどころかむしろ加速していき、特に最後のコリオグラフィック・シークエンスは表現面でも心を揺さぶる滑りでした。曲を聴いて感じたことをそのまま滑りに乗せて観客に伝えられるのは、彼の天性の才能だと思います。




HAL:グランプリファイナルが終わるとそれぞれの国で国内選手権が始まります。ここまでの大会と国内選手権の結果で、各国とも欧州選手権四大陸選手権、世界選手権の代表を決めることになります。
日本の場合の世界選手権代表選考条件は下記の通り。

◉2012-2013 年 国際競技会派遣選手選考方法 (改)
http://skatingjapan.or.jp/image_data/fck/file/2012_Figure/2012_13_FS_senkokijun1004.pdf
全日本選手権終了時に、以下の基準のいずれかを満たす者から総合的に判断して決定する。
1,シニア・グランプリ・ファイナルの日本人上位3名(参加が3名未満の場合はシニア・グランプリ・シリーズのランキング上位3名)
2,全日本選手権3位以内
3,全日本終了時点でのワールド・スタンディング(3シーズンの通算成績を基にした世界ランキング)で上位3名」


HAL:男女ともに世界選手権の出場枠は各国最大の3枠を獲得していますが、女子シングルの場合はこの時点で
1. グランプリファイナル1位浅田真央選手 3位鈴木明子選手 グランプリシリーズで彼女たちに次ぐ成績だった村上佳菜子選手の3名
3. 世界ランク2位鈴木明子選手 5位浅田真央選手 9位村上佳菜子選手が確定しました。
残りの選手たちは全日本選手権に賭けるしかないわけですが、国際大会で安定した成績を残せていないほかの選手を全日本の成績だけで選ぶ可能性は低いと思うため、この3名で世界選手権代表もほぼ確定ではないかと思います。来年3月の世界選手権の成績によって五輪の出場枠も決定するので、ここで無名の選手を出して冒険させることはできないと思います。
男子シングルは…
1. グランプリファイナル1位高橋大輔選手 2位羽生結弦選手 5位小塚崇彦選手
3. 世界ランク2位羽生結弦選手 3位高橋大輔選手 6位小塚崇彦選手が確定。
こちらはグランプリファイナルの表彰台に乗った高橋、羽生選手はほぼ代表確定でしょうが、3枠目に関しては微妙です。2011年の世界選手権2位の小塚選手であっても油断できない。グランプリシリーズで優勝した町田樹選手、無良崇人選手もいますし、織田信成選手もいますからね。最後の望みをかけて皆全日本に向けて調整してきていると思うので、すごい戦いが見られるのではないかと楽しみにしています。
下記の動画は2006年のカナダのテレビ局での日本選手の特集ですが、男子はようやくここで指摘されている女子の状況と同じかそれ以上になってきたと思います。



HAL:そして表彰台争い以外でも、男子は個性豊かで面白い選手がたくさんいるのでご紹介します。
——わかりました。映像を見せていただきます。



HAL:まず今年のグランプリシリーズで台風の目になった町田樹たつき)選手。グランプリファイナルはほかの5選手に突き放された形になってしまいましたが、あの場に立ったのも初めての経験ですし、トップの戦いがどんなものかを肌で感じられただけでも良かったと思います。
もともと表現面で人を引き付けることが上手い選手でしたが、ジャンプでミスしても崩れることなく最後までまとめようとすることができるようになりましたね。


ーー雰囲気のある選手ですね。
HAL:彼の場合はショートは4回転を入れず、フリーでも4回転はまだ安定していないので、とにかくほかの要素をすべてミスなく滑りきる必要があります。



HAL:次にグランプリシリーズのフランス杯で優勝した無良崇人選手。ジュニア時代から次世代のエースとして注目されてきた選手ですが、腰のヘルニアなどに悩まされて、なかなか実力を発揮できないでいました。
決まれば豪快で素晴らしいジャンプと、スケールの大きいダイナミックなスケーティングが魅力的な選手です。



HAL:織田信成選手は昨季から怪我で戦線離脱を余儀なくされていまして、今シーズンはその復帰戦でした。グランプリシリーズはまだまだ調整途上といった感じでしたが、全日本までにどのくらい仕上げてきているかは気になりますね。


——信成は結構気になる選手なんです。彼のように若い時期に結婚した選手って、これまでにもいたんですか? 
HAL:なんで織田選手だけ「信成」って呼び捨てなんですか(笑)。そうしたくなるキャラなんですか(笑)。


——明らかに過剰な何かを持っていて、無視出来ない存在ですよ(笑)。個人的には愛されキャラだと思います。
HAL:ロシア人なら10代で結婚も珍しくないですけど、日本の選手では初めてですね。彼はまだ学生ですし。でも結婚して父親になったからって人間そうそう変わらないんだな…というのがここ最近の彼の印象です。彼に対する逸話はありすぎてちょっとここでは書ききれません。



HAL:この6人に絡む実力を持っているのが村上大介選手。もともとアメリカ代表として国際大会にも出場していましたが、途中から日本に移籍しました。当時はまさかここまで日本男子が強くなるとは予想していなかったでしょう。
アメリカの選手らしくポジションが綺麗で観客を楽しませる演技をしてくれる選手ですが、NHK杯で肩を脱臼して棄権。怪我からどのくらい回復しているか心配です。


——まだまだたくさん選手はいるんですね。
HAL:グランプリシリーズに派遣されたこの7名以外にも素敵な選手がいまして、まずスケートファンの間で非常に人気があるのが佐々木彰生選手。





HAL:とにかくよく踊る、踊る。毎回どんなプログラムを滑ってくれるのかみんな楽しみにしています。


——彼もジャニーズにいてもおかしくない感じ。ダンスが好きなんですね。そういう感じは伝わります。
HAL:中村健人(けんと)選手は手足も長く所作がとても優雅。これでジャンプが決まって安定してくれば成績も伸ばせると思うのですが、そこが惜しいですね。



HAL:ジュニア世代にも楽しみな選手がたくさんいます。まずは羽生選手と同い年のこの二人。
日野龍樹(りゅうじゅ)選手は今年のジュニアグランプリファイナルで3位に入りました。トリプルアクセルが安定して入れられ、スピンの回転速度も速いです。以前に比べて大分表現面も意識して滑れるようになってきました。



HAL:同じくジュニアグランプリファイナルに進出し、2011年の世界Jr.選手権では2位を取った田中刑事(けいじ)選手。ちょっとここ最近トリプルアクセルが不調で調子を落としているのが心配です。



HAL:当時17歳という年齢でも、指先まで気を使って表現して、タンゴを踊らせても様になっていただけに、何とか立て直してほしいですね。



HAL:そして15歳の宇野昌麿(しょうま)選手。本人はダンスは嫌いと言ってるんですが、嘘だろ?と言いたくなるほど踊れる選手です。
まだ体形が子どもで高難度ジャンプが跳べないのと、山田満知子コーチの門下生らしく、ジャンプに癖があるのが気になるのですが、ほかの要素はそつなく点数を取ってきます。身長がこれから伸びるかというのと、山田コーチの彼への接し方が中学3年生男子に対してというより、小学校低学年に対するようなのが気になりますが、将来が楽しみな選手の一人です。



HAL:そしてフジテレビ的に大注目なのが、子役の本田望結ちゃんのお兄さんの本田太一選手。本田兄妹は関西大学で高橋・織田両選手と同じリンクで練習してます。


——凄いですね、真凛ちゃん。氷上の天才子役だ(笑)。間違いなくフジの大好物。金の卵て言われてますよ!
HAL:真凛ちゃんはまだシニアの全日本への出場資格を持ちませんから、フジテレビ的には歯噛みしたい気持ちでしょう。出てたら間違いなく盛大に煽っただろうに!
今の日本男子は間違いなく黄金期。2003−2004シーズン当時、ジャパニーズ・パワー・ハウスと呼ばれた女子が、現在ずいぶん寂しい状況になってしまったのと対照的に、男子が今はパワー・ハウスと呼ばれてもおかしくないレベルに達しています。


——ええ、それは感じますよ。
HAL:ですがこの礎を築いた存在として本田武史選手を忘れてはいけない。1978年に佐野稔選手が世界選手権で銅メダルを取りましたが、その後一人も世界の表彰台に届いた選手はおらず、男子が国際大会で活躍するには彼の登場を待たなければなりませんでした。
14歳で全日本選手権で優勝し、2002・2003年には世界選手権銅メダルを獲得。佐野さんから実に24年ぶりの快挙でした。2002年ソルトレイクシティ五輪では4位。欧州と北米がしのぎを削る中で、日本男子でも世界と対等に戦っていけると示した選手。彼がいなければ今の日本男子の隆盛は無かったと思います。




HAL:世界一美しい放物線を描く4回転。派手なところではなく静かなところでこそ観客を引きつけられる表現力。
彼一人しか世界と戦える選手がいなくて、そのために故障を押して無理に大会に出場させ、結果的に選手生命を縮めるようなことが無ければ、2006年のトリノ五輪に出場で来て、メダルに手が届いていたかもしれない。そんなことを未だに思います。



HAL:その彼がコーチに転身して、高橋大輔選手のサポートをしてくれていることがどれだけ心強いか。2008年の大怪我の後、高橋選手のジャンプを一から作り直してくれたのは、本田コーチです。エースとしての孤独も重圧も、怪我で思うように身体が動かない苦しさも焦りもよくわかっている彼が、傍にいて支えてくれたことがどれだけ高橋選手の励みになったことか。
そんな本田コーチの背中を見て育ってきた高橋選手が同じように後輩たちに道を示し、彼を超えようと若手が奮起して、本当に今の男子は良い環境にいると思います。


高橋大輔選手、フィギュア日本男子の「道」を作った銅メダル
http://www.joc.or.jp/teamjapan/2010/02/post-066c.html


HAL:日本男子が五輪に参加してバンクーバー五輪で銅を取るまで実に78年かかりました。そこからさらに大きな波が来ています。彼らの力がぶつかりあう全日本選手権がとても楽しみです。
——全日本選手権は12月21日(金)から北海道真駒内で行われます。HALさん、どうも、ありがとうございました。