ハノイの日本人

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山口百恵『プレイバックpart2』は自立した女の歌なんだろうか?

ダイヤモンド・オンラインという経済誌が運営しているサイトに「新しい女性像を受け入れる男性はPerfumeが好きだ」という文章が掲載されていました。突っ込みどころ満載でw スルーしようかとも思ったんですけど、ちょっと気になることがあったので真面目に考えてみました。まず、記事のタイトルへの反論としては 東浩紀さん編集の『日本的想像力の未来』という本を読めばいいと思います。


◉「Perfumeファン」「AKBファン」、あなたはどっち?女性アイドルの好みでわかる、オトコの変革志向(竹井善昭)
http://diamond.jp/articles/-/45729
『世の中には二種類の男がいる。Perfumeが好きな男と、そうではない男だ。今回はPerfumeを起点に、女性アイドルと社会貢献の関係について述べてみたい。僕の周辺のオヤジには、熱心なPerfumeファンが多い。しかし、AKB48グループのファンはほとんどいない。それはなぜなのかということを考えてみたときに、女性アイドルというものが、社会変革と大きな関係があることがわかった。端的に言えば、女性アイドルの歴史とは、女性解放とそれに対する反動の歴史なのだ。Perfumeは女性解放としてのアイドルの系譜につながり、AKB48グループは反動の系譜につながる。言い換えれば、新しい女性像を受け入れる男性はPerfumeが好きだということだ。これが、僕と親しいオヤジどもにPerfumeファンが多い理由だが、今回はこのことについて少し詳しく述べつつ、新しい女性像を受け入れることが社会だけでなく、経済や企業を成長させるのか――ということについて考えたい』



日本的想像力の未来 クール・ジャパノロジーの可能性 (NHKブックス)

日本的想像力の未来 クール・ジャパノロジーの可能性 (NHKブックス)


私は本書を何回か読んでいるのですが、未だに消化できず再び読んでいます。このなかで宮台真司さんが日本のポップカルチャーが持つ「社会的文脈の無関連化機能」という話をされています。まあ、AKB はその機能を持つには至っていないと思いますが、どちらにしろこの竹井さんの主張には意味がないと思います。でも Perfume のこの曲は大好きですよ! さらに文章は続きます。


『この時代(70年代)の女性アイドルは、若い男子の幻想の投影物で、つまり男性的価値観の具象でしかなかった。男子の幻想の投影とは精神的な憧れの対象であり、性的な対象という視点はむしろファンの側が排除していた。だからアイドルがセクシーであることはあり得ず、そのような役割は山本リンダなどもっと大人の歌手や女優が担っていた。(中略)しかし、だからこそ山口百恵キャンディーズは衝撃的だった。なぜなら彼女たちは、いわば「自己主張する」最初のアイドルだったからだ。山口百恵を特別な存在に高めたのは、「横須賀ストーリー」から始まる一連の宇崎竜童・阿木燿子夫妻による作品群だ。その代表的な楽曲である「プレイバックpart2」のなかで主人公の女性は、真っ赤なポルシェに乗って一人旅をする。そして男性に向かって「バカにしないでよ」と啖呵を切る。つまり、1人で自由に行動し、男に対して堂々と主張する女性像を歌い上げていた。この「自己主張する女性」は、当時の芸能界にあっても、一般の社会にあってもまったく新しい女性像だった。女性は自己主張せず、男性の言うことに黙って従うのが美徳とされていた社会にあって、自己主張する女性を歌う。そして、そのような女性像を多くの男性に受け入れさせた。これが、山口百恵が成し遂げたことだ』


さて、本題に入ります。この方は 山口百恵キャンディーズ は「自己主張する」最初のアイドルだったと語られています。しかし、CBSソニー酒井政利プロデューサーは、山口百恵 はこちらの注文にすべて従ったと語られています。70年代アイドルに自己主張は許されていなかったのです。両者はそれ故、引退、解散という最後の手段を使うことで自己主張するしかなかったと捉えるべきでしょう。なので、それ以前の『プレイバックpart2』の歌詞を取り上げて「自己主張する」というのは奇妙な話だと思うんですよ。



それどころか『プレイバックpart2』という曲は「自己主張する女性」を歌ったものだったでしょうか? たしかに、文句は言ってますけど。結局「あなたなしでは生きれない」女性の歌だと私は思ったものですから。でも、今回歌詞をちゃんと読んだら意外なことがわかりました。これ昭和を代表する作詞家・阿久悠さんに向けたアンサーソングになってたんですね? ネットで調べたところ百恵ファンには有名な話のようです。作詞は阿木曜子。


 ♪ 馬鹿にしないでよ そっちのせいよ
   これは昨夜(ゆうべ)の私のセリフ


 ♪ 勝手にしやがれ 出て行くんだろ
   これは昨夜(ゆうべ)のあなたのセリフ


1番での私のセリフ。2番でのあなたのセリフ。この2つのセリフを見るとわかることがあります。まず、2人は上のセリフをぶつけあったわけです。そして、2番のセリフは 沢田研二レコード大賞を取った『勝手にしやがれ』のことを指しています。『プレイバックpart2』は『勝手にしやがれ』の登場人物2人について、今度は女性の側からの視線で書かれた歌詞だったのです。つまり、出て行った女のその後が書かれています。竹井さんの記事では「自己主張する女性」という好意的な解釈がされていますが、本当にそうでしょうか?



『プレイバックpart2』私の解釈は「売り言葉に買い言葉できのうあなたとケンカした」というものです。最初の交差点での接触事故のくだりで語られているとこを見てください。相手が怒鳴っているからこちらも怒鳴ったと言っています。そして、そのことできのうのケンカを思い出しているのです。また最後の方で、彼女は「あなた」のことを「坊や」と呼んでいますが、実は自分自身も寂しがり屋の「お嬢ちゃん」なんですよ。だから、あなたのもとへ帰るんです。


阿木さんは『勝手にしやがれ』で別れた2人を仲直りさせたわけです。このような形で 阿久悠さんへのリスペクトを表したのでしょう。歌詞にも「ステキな唄が流れてくるわ」とありますよね。まあ「坊や」という言葉があるように、ちょっと皮肉を加えている気もしますがw いい話ですよね。


ちなみに、女性の自己主張というのは、阿久悠さんが得意としたテーマです。ピンクレディーペッパー警部』は 山口百恵横須賀ストーリー』と同じ 1976年8月に発売されています。ここでは警察権力に向かって「邪魔をしないで」と強く自己主張していますよw 同じく国民的アイドルの モーニング娘。が歌うバージョンを見てみましょう。



◉日本にはなぜこんなにアイドルがたくさんいるのか?
http://d.hatena.ne.jp/wakita-A/20130704/1372916736