書き出したのが遅かったんです。保坂さんの作品を何冊か読んでたんですけど、うまく読むことができなくて。それはもちろん私が小説を読むのに慣れてないからなんですが。前回の授業の前に他の受講生の方々と話していて、デビュー作の『プレーンソング』のことを話されてた方がいたんです。それで京都に帰ってすぐに注文したところ、これがずばりでしたね! この謎を解いてみろよ、そんな保坂さんのメッセージが刻まれていました。
◉保坂和志についての評論を執筆せよ(ゲンロン批評再生塾)
http://school.genron.co.jp/works/critics/2017/subjects/4/
『実作者のゲスト回は毎回、ゲスト講師を対象とした批評文の執筆が課題となります。したがって今回受講生の皆さまには、文学回のゲスト講師である保坂和志さんについての評論を書いていただきます。内容、形式などは原則として自由。文字数も従来と同じく、2000字〜4000字とします。』
保坂和志『プレーンソング』はあの大ベストセラー、村上春樹『ノルウェイの森』への1986年を舞台に書かれたアンサーだったんです。それに気づいたら謎解きしないわけにはいきません。たとえ本人が読む可能性があったとしてもです。今回はじめて気づきました。私が謎解きに目覚めたのは『ノルウェイの森』を2回目に読んだ時だったのです。1回目は当時付き合ってた彼女が村上春樹のファンで「もちろん読んでるよ」って感じで読みました。恋愛小説としてです。
2回目はロフトを辞めた後でした。オーナーが全共闘世代で、あの世代特有のあの感じの正体をしりたくて、全共闘世代というか団塊世代の有名人をリスト化した書籍をつくろうとしたんです。凄かったですね。北野武、泉ピン子、西田敏行、沢田研二、矢沢永吉、由紀さおり、五木ひろし、武田鉄矢、細野晴臣、大瀧詠一、松本隆、などなど。もちろん小説家も沢山いるわけですよ。それで村上春樹のコラムを書く為に『ノルウェイの森』を読んだところ、これは全共闘運動について書いた小説なんだと気づいたんです。気づいたときには衝撃で視界がぐにゃりと歪みました。
主人公のワタナベは記者なのか、ライターなのかはわかりませんが、取材でデモに参加してるんですよね。突撃隊も緑も取材対象なのでしょう。1966年にワタナベは日本についての何らかの問題にキズキ、そして直子と出会う。で、ワタナベ自身はキズキの死と共に運動からは離れる。で、大学へ行くため上京。そこで直子と再会し、デモに取材として参加。というような謎解きをしてました。だいたい68年から70年まで日本が内戦状態にあった時代の小説です。一方、『プレーンソング』は1986年の冬から夏までの平和なる日常について書いた作品でした。
もちろん1986年ですからバブルの始まりについて書いた小説なのです。しかも動物が馬・猫、犬と登場してまして、エコノミック・アニマルについて書いているのでしょう。給料はドル=円、猫は株価をしめしているようです。で、どういう感じでまとめるかを考えたんですけど、これが難しかった。80年代の文化系大スター糸井重里『家族解散』とつなげてみようと試みました。これはある家庭でちゃぶ台がなくなったのをきっかけに家族が崩壊する小説でした。
なのでそこから「家族」ということで上野千鶴子なのか、柄谷行人なのか、江藤淳なのか、大塚英志なのかと考えてるうちに時間切れになりました。謎解きだけで提出するわけには行かないと思ったんです。当たり前ですねw 作家さん本人に答え合わせを要求するほどメンタル強くないので。そんな感じでした。次回の斎藤環さんの課題はすでに発表されています。「アニメ『この世界の片隅に』を“批判”せよ」です。なぜ?って感じはありますが、わりとすぐにアイデアは浮かびました。書き上げられるかどうかは別なんですけど。がんばろ。