数日前に音楽評論家の田中宗一郎のインタビューのことを書きました。きのう新しいインタビュー『誰がDJカルチャーを破壊してきたのか?』がアップされて、それが凄く面白かったので読んでました。ロックDJ の奴らは DJカルチャーへのリスペクトがないと怒られていますw わかるけどダイノジなんかに関しては只のパフォーマンスなんだし、別物でいいんじゃない? とりあえずダイノジは Netflix で『GET DOWN』を観るようにw
でもこの話は、この前書いた DJカルチャーを通過したリスナーは、メロディーを中心にして音楽を聴いていないという話に繋がると思います。HIPHOP、ハウス、テクノ、音響を通過したリスナーは、メロディー中心で音楽を聴いてないんですよ。だから J-POPをつまらなく感じる。ロックDJ もその観客たちも4つ打ちの楽しさは知ってるんだから、メロディ+リズムにまでは行き着いた。そこから先を教えるのが音楽批評の役割だったんじゃないですか?
東浩紀さんが『ゲンロン4』に書かれているように批評の「観客」を育てて来なかったとも言えるでしょう。ついでに言っておくとゼロ年代批評の人たちのアイドル批評が的外れだったのは、彼らがメロディー中心でしか音楽を聴いていなかったからです。少なくとも音楽とは関係ない話だった。で、きょうは「メロディーを中心にして音楽を聴かない」訓練方法について書きます。意識を変えるのです!
- 作者: 宇野常寛
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/09/09
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◉誰がDJカルチャーを破壊してきたのか?(田中宗一郎、小林祥晴)
https://www.fuze.dj/2017/07/dj-culture.html
『田中: 乱暴に説明すると、その頂点にいるのはダイノジの大谷ノブ彦くんとやついいちろうだくんだよね。ステージ上にダンサーがいて振り付けをつけたり、マイクを入れて、スリップノットがやっていたみたいにクラウドを一回座らせてジャンプさせたり。
――もう完全に別物じゃないですか!(笑)。
田中: そうだよ。でも、これがDJカルチャーなんだと思ってる人たちがどれだけ少なく見積もっても日本には10万人はいると思う。問題はそこだよね。メカニズム的には、実際に戦争を経験した世代が亡くなっていって、それをいいことに一部の馬鹿が発した、日本は侵略のために戦争したわけじゃないんだっていう言説を鵜呑みにしてしまう若い世代が出てくることと同じ。大谷くんたちは本当に純粋な音楽愛から出発したんだと思う。ただ彼らに1ミリの悪意もないのを大前提にしたとしても、彼らがクラブ・カルチャーの歴史について無知で、無教養であるせいで、現実的には不特定多数の若者に対して、パラダイス・ガラージから続くDJカルチャーという歴史への扉を閉ざしてしまったのは間違いないと思うんだよね。』
◉黒船Spotifyが日本の音楽文化を救う? 田中宗一郎インタビュー(金子厚武)
https://www.fuze.dj/2017/07/spotifyapple_musiccd10_cdspotify_cd_apple.html
『ケンドリック・ラマーを日本に呼ぶためにこれから彼のCDを5万枚売ることより、Spotifyで20万人が彼の音楽を聴いて、10万人が彼のファンになることのほうが現実的だし、手っ取り早いという音楽評論家的な視点もあるにはある。でも、それ以上にとにかく楽しいんですよ、Spotifyで音楽を聴くのが。とにかくエキサイティングなの。(中略)フランク・オーシャンが『Blonde』を出した日。俺、その日のことはすっごい覚えてて。ちょうどサマーソニックの2日目の早朝だったんですよ。(中略)朝起きたらTwitterがフランク・オーシャンで埋まったわけ。(中略)その日の早朝はいろんなメディアや個人がひたすら『Blonde』についての情報をどんどんアップしてて、自分を含めた『Blonde』を聴いた誰もがとにかく興奮しまくってた。「うわ、2016年夏、時代が動いた! 今まさに俺はその事件に立ち会ってる!」って実感があった(笑)。(中略)でも、昼からサマーソニックの会場に行ったら、そんなムードなんて微塵もないわけ(笑)。(中略)20年前の曲で湧き上がる3万人と、フランク・オーシャン祭りになったタイムラインの向こう側にいる何百万人と、どちらの一部であることがエキサイティングかなって思うと、やっぱり後者だと思っちゃったんだよね』
正直、私は現在の音楽状況がエキサイティングだという田中さんの観方には懐疑的です。単に私が無知なせいかもしれないけど。なんと言うか、音楽自体の衝撃ではなくてコンテクストを伴ったものという気がしています。もちろん、フランク・オーシャンは気持ちいいですけど。それでも J-POP がメロディーで止まってる状況は酷いと思うので、音楽を聴く訓練の話をします。
例えば、小説を読まれる方は、ストーリーだけを追ってるわけではないですよね? 自分にとって新しい情報であったり、言葉のリズムであったり、その文章からイメージされる風景だったりを楽しんでいるはず。そういうことが音楽でもあるわけです。映画の方がわかりやすいかも。ただストーリーを追うだけじゃないですよね? 映像の質感とか、カット割りのリズム感とか、いろんな快楽があるはずです。
それとは別に、映画を観てるとき音楽が流れて来ますよね? そこでメロディーに意識が集中したりはしないと思うんです。あくまでも映像を観ながら、頭の片隅で音楽が鳴ってる感じですよね。私が言う「メロディーを中心にして音楽を聴かない」はこれに近いと思います。メロディーはあくまでも音楽の一部なんです。
次に絵画はどうでしょう? まず全体を観ます。そして描かれている対象の配置なんかを観たりするでしょうか? 慣れて来るとパッと観の印象で、いいかわるいか、好きか嫌いかがわかってくると思うんですけど、最初はやっぱりその情報を読み取るのに時間がかかると思うんです。どういう絵の具が使われているのか? どういう塗り方がされているのか? 音楽でも楽器がそれぞれどのような響きで、どのように配置されていて、全体としてどのように響いているかとかを聴くわけです。
じゃあ、実際どのように音楽を聴けばいいか? 私は先月、京都の山食音というカフェ&イベントスペースで2回程イベントを観て来ました。1回目は宇都宮泰さんのマスタリング講座。どのようなフリーソフトを使って、バンド演奏などの録音物をどのようにマスタリングして行くかという勉強会です。ここではコウモリの鳴き声の録音とそれを聴衆に聴かせるための編集方法を教えてもらいましたw
コウモリの鳴き声は人間の可聴域を少し外れているんです。でも訓練次第で聴けるようになるw まずは意識をすることなんです。このときは周囲のノイズを削除して鳴き声を聴きやすくしてもらい、私たちも聴くことができました。2回目は山食音の東岳志さんが話された「いい音ってなんだろう」でした。こちらでは池に石を放り込んでその音をどう録ったか。あとで録音したものを聴くと、現場では感じていなかった音が沢山入っているんです。
で、そこで話されたことが印象的でした。自分の周りにあるどんな音でも「音楽」として楽しむという話です。例えば、ビール瓶とコップがぶつかったとします。普段はそれを雑音としか認識していません。しかし、これを音楽として意識すれば結構きれいな響きの音として楽しむことができるわけです。風鈴なんかはそういうことですよね? ビール瓶ではそこまでいい音に鳴らないというのであれば、いい音がする素材でビール瓶をつくればいいわけです。
だから DJ カルチャーというのはそういうことなんです。既存の音楽では飽き足らずに、そこに鳴ってる音をもっと自分の好みにいじって行く。東浩紀さん的な言い方で言えば、既存の音楽から自分の好きなとこだけを取り出して加工して二次創作する。それがわかればノイズ・ミュージックだって楽しめます。いきなり、そこまでは難しいので、まずは音をばらして聴く訓練をする。それが先日書いた、メロディーもボーカルも無視して、例えばハイハットだけに集中して聴いてみる方法です。
sora tob sakana『ribbon』であれば、最初のカエルが飛び跳ねてる音をずっと追ってみる。ベースでもいい。1音1音の質感に意識を向ける。いい音なのかそうでないのかを気にしながら聴く。慣れたらその音を追っていても他の楽器やボーカルも頭に入って来ます。ヘッドフォンを使うのもいいでしょう。嫌でも細部が聴こえて来るので。最後に、いい音について私が感じてることを書きます。よくライブでいい音だったとか、悪い音だったとか書いてますけど、その話です。
ちょっと極端な書き方で言うと、綾波レイが水槽みたいなとこに入れられてたじゃないですか? なんらかの水溶液だと思うんですけど。いい音というのはその水溶液が気持ちいいという感じです。そこに浸されてるのが気持ちいいのです。で、その場のサウンドシステムがダメな場合は、なんか他所で鳴ってる感じがしたりとか。もちろん、楽器が気持ちよく響いていないとかもあるんですけど。まあそんな感じがあるんです。こんなところでいかがでしょう? 少しは伝わるかな?