ハノイの日本人

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特集3. 消えたアイドル Maison book girl。1

 

 

消えたアイドル 

Maison book girl

2021· 5·30 ブクガ消失。消えた楽曲派アイドルの謎を解く

 

 

Maison book girl が突然消えた。

 2001年5月30日、異端の楽曲派アイドル、Maison book girl(略称ブクガ)が消失した。解散は発表されていない。東京ディズニーランド敷地内にある舞浜アンフィシアターでのライブが行われ、それを最後にネット上のサイトごと消えてしまった。

 

 もちろん、メンバーが消されたわけではないし、どこかで生きているはずだ。メンバーの矢川葵は解散後初めて、キミノオルフェというバンドのMVに登場(*1)。このバンドのボーカリスト蟻が、ブクガのボイトレ講師をしていた関係で出演している。すべての楽曲を手がけていたプロデューサーのサクライケンタも、アイドルグループ、クマリデパートのプロデュース活動を続けている。ただ、ブクガについては活動終了は事実であるものの、その理由は関係者も口を閉ざしているのだ。

 

 現在、ファンは Maison book girl 最後の作品『Solitude HOTEL』(2021年8月18日発売、ポニーキャニオン)の発売を待っている。これは舞浜で行われたラストライブを収録したBlu-rayで、その限定盤にはライブのメイキングが収録される。ここで何らかの情報が提供されるとファンは期待しているのだ。メンバーからの挨拶があるかも知れない。今はそれを待ちながら、ブクガのこれまでを振り返ることにする。

 

 

 

楽曲派アイドルとは?

 Maison book girlは「楽曲派アイドル」だと冒頭に書いた。アイドルは主にファンとの関係を歌うが、この場合「楽曲派」を自認する者たちが好きなアイドルという意味になる。ブクガの楽曲では『bathroom』を聴いてもらうのがわかりやすい。少ない音数で変拍子のリズムが刻まれる曲だ。ブクガ1番の人気曲で、ライブの開演前やアンコールを求める際に、ファンがハンドクラップでこのリズムを叩く。現代音楽とポップスをかけ合わせたリズミカルな音楽だ。

 

「楽曲派」は誤解を招きやすい言葉である(だったら使うなって話もある)。例えば、写真家で編集者の都築響一は、自著IDOL STYLE2021年、双葉社)において、アイドルの自室と、そのアイドルのファンの自室を撮影し写真集にしている。そこには『「楽曲派」とは』というタイトルのコラムも収録された。都築にとって、アイドルを取材する中で知った一番驚いた言葉が「楽曲派」だそうだ。明らかに小馬鹿にしたその文章の最後の部分を記録する。

 

 

 ならば楽曲派は音楽に造詣の深いひととして一目置かれるかというと、「そうでもなくて、揶揄のニュアンスもあるんですよね」。

!? 

「ストレートにアイドルファンだと胸を張れない人の隠れ蓑としても『楽曲派』は使われていて、接触に興味がないと虚勢を張るイメージといいますか」……。ストレートにエロを好きと言えなくて、「エロじゃなくてエロスですから」とか言いたがるインテリスケベみたいなものでしょうか。

 

 カッコ内で解説しているのは、この書籍の担当編集者。少し取材して本を出しただけでこの態度。アイドルファンは、この手の人たちにとって見下して構わない存在だ。しかし、楽曲派アイドルでは、年数を経るごとにファンの男女比も半々に近づいて行く傾向にある。都築のエロを前提にして語る姿も滑稽でしかない。「私」を傷つけない安全な「他者」。アイドルにはそのような受け止め方もあるのだ。そのことは「特集1」で書いた。

 

 

 

「楽曲派」という言葉は、ミュージシャンの掟ポルシェが最初に使ったと言われている。小さな子供のアイドルの楽曲を評価した掟が、友人からロリコンと言われたのを受けて「俺は楽曲派だから」と冗談めかした発言で使ったそうだ。しかし、ライターのピロスエが主催し、ネット上で年末に開催される「ハロプロ楽曲大賞」(2002~)や「アイドル楽曲大賞」(2012~)の盛況を受け、その後、その言葉の使われ方も変化する。

 

 私が「アイドル楽曲派」(*2)を積極的に名乗るようになったのも、握手会をメインにした「AKB商法」という言葉が使われ出した2012年あたりだったはずだ。聴かないCD10枚、100枚と買う。曲なんて誰も聴いてないと言い出すアイドル運営さえ出てくる状況。新聞、テレビ、雑誌などのメディアはそれを「王道アイドル」と言い出した。バカなのか? そのような間抜けな状況を批判的に語るため「楽曲派」を名乗るようになった。同じCDは1枚しか買わない。握手会には行かない。エロを前提にしないと楽しくないという価値観は、よくわからない(*3)。

 

 もう少し私自身のことを書かせてもらう。最初に買ったレコードはフィンガー5『恋のダイヤル6700』(1973年、フィリップス)。当時、私の通っていた保育園の園児たちも熱狂していた。それ以来、ずっとアイドルを聴いている。もちろん、中学生、高校生になるとロックもHIPHOPも、ハウスもテクノも、いろんな音楽を好きになった。しかし、アイドルソングだけは馬鹿にされ続けてきた。ロックの方が偉い理由がわからない。そういう状況が変わってきたのは、渋谷系のミュージシャンがアイドルソングを評価し出したあたりだ。過去の音源をその楽曲の良さだけで評価する。いろんな音楽からサンプリングして楽曲を制作するDJのセンスが一般にも広がった時代。90年代以降はそうなっていないだろうか?

 

 

 例えば、既に解散している楽曲派アイドル sora tob sakana は、ポストロックのバンド、ハイスイノナサsiraph で活動する照井順政がプロデュースするグループだった。彼女らが歌う楽曲のクオリティは高く、アイドル楽曲派を自認するファンから喝采を浴びた。だが、それに対してメンバーは、「楽曲だけでなく、もっと私たちを見てほしい」とファンに訴えたことがあった。確かに、複雑なリズムの楽曲に負けずに歌って踊る、彼女たちのハードな練習なしにはクリアできない課題だったはずだ。2020年9月6日、日本青年館での最後のライブ『untie』で、照井兄弟ら技巧派ミュージシャンをバックに、自信に満ちたパフォーマンスを見せてくれた彼女らに、心から感謝したい。私たちはこれからも sora tob sakana の楽曲を聴き続ける。

 

 1998年にCDの売上はピークをつける。日本のレコード会社の劣化が徐々に姿を見せ始める。秋元康SONYを中心に、楽曲に力を注ぐよりも、握手会や炎上マーケティングで話題にして行くアイドルがメディアを席巻した。J-POPが時代のサウンドとずれて行く中で、2008年以降は K-POPサウンドクオリティで負けるようになった。2010年にはKARAや少女時代が大ヒットする。そして現在では、K-POPスターがティーンの憧れとなった。デビューを夢見て、韓国でレッスンを受ける者もたくさんいるのだ。

 しかし、日本にも独自の面白い音楽が登場していた。マスメディアで紹介されなかっただけ。sora tob sakana Maison book girl はその代表とも言えるグループだ。(つづく)

 

 

*1:キミノオルフェ『パパラチア』のティーザーが2021年7月15日に公開された。そこに矢川葵が出演。表記には(ex-Maison book girl)と書かれていた。ブクガ解散後に撮影された映像と思われる。

 

 

*2:現在私はSpotify で「アイドル楽曲派宣言」というリストを1~7まで公開している。年末にはアイドルソングBEST10 をブログ『ハノイの日本人』で公開している。2020年の1位はイヤホンズ『記憶」と、sora tob sakana のラストライブだった。

 

 

*3:握手会には現在も行っていないが、コロナ禍で厳しい状況に置かれたアイドルにお金を使いたいと思った。そこで、もう少し深くアイドルにハマろうと考え写真集を買い始めた。半分以上は今もビニールを解かずに積読状態だ。それでもいくつかはその魅力に気付かされるものだった。アイドルにも肉体はある。だからって、どうにもならないけどね。