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ジャニ友2月 松本隆。  後編

作詞家・松本隆さんのサイト『風街茶房』に『スワンソング』の解説が掲載されました。冒頭に『普段は歌手にさえ詞の説明をしない松本隆が、自ら「スワンソング」を解き明かす』と書かれてあるように、異例の出来事です。3回目の今回はいよいよ核心部分に突入です。大作詞家・松本隆さんに対して失礼を承知で、今回の件について思ったことをすべて語ろうと思います。



◉ 季節の松本 第16回 KinKi Kids 新曲『スワンソング
http://www.kazemachi.com/cafe05/kisetsu/kisetsu_main_016.htm


1. 松本隆KinKi Kids
2. 「硝子の少年」はデビュー曲候補の最後に作った
3. KinKi Kids の壊れやすい美しさ
4. 「スワンソング」に課せられた3つの課題
5. アンナ・パヴロワの「瀕死の白鳥」
6. 松本隆による「スワンソング」解説!
7. 「金色夜叉」で何が悪い?
8. “遠距離恋愛”はミスリード
9. スワンソングに込められた真意


——6番目『松本隆による「スワンソング」解説!』です。冒頭に書いた『普段は歌手にさえ詞の説明をしない松本隆が、自ら「スワンソング」を解き明かす』のまさにその箇所です。
Oさん:遠距離恋愛の歌だと勘違いしてほしくないから、特別に・・・ということだそうですね。さて、歌い出しの部分で、私は、“何か”から逃げる少年を思い浮かべました。そして海はどうしても沖縄などの暖かい海しか浮かばなかったんですけど・・・シチュエーションはもっと冷たい感じなのかな。「あえて内容を伏せて書かれてる部分があって」とか「韻を踏んでる」とか、細工がたくさん仕掛けてあります。


——白鳥ですからね。もちろん冬のイメージですよ。「青空」は「白」との対比でしょう。だから、わざわざ「雪崩」という言葉まで使ってるんだと思います。この項目では、松本さんの持つ技巧の数々が説明されていますね。ひとつとして無駄な言葉がない。圧巻です。それ以外で、本筋とは関係ないですけど私が気になったのは「♪ 死にゆく鳥が綺麗な声で 歌うように波が泣いた」という歌詞の解説。中山優馬が主演した NHKのドラマ『バッテリー』ってありましたよね? 主題歌も素晴らしかった。ミスチルの『少年』。



そこに「♪ 日焼けしたみたいに心に焼き付いた 君の姿をした跡になった 蝉が死んでいったって 熱りがとれなくて まだ消えずにいるよ」という歌詞がありました。「蝉が死んでいったって」この歌詞のインパクトは凄かった。フレッシュ!! この曲が本当に好きで、台湾でミスチルのアルバム買ってしまいましたからね。初めて新品買いましたよ、ミスチル
Oさん:中山優馬から入ったミスチルとはAさんらしいですw。死を意識した歌詞は、耳で聞くより、このように文字にすると一層、インパクトがありますね。


——で、なにが言いたいかというと、松本さんも「ポップソングとして、どこまで過激な表現が許されるか?」ということは意識しながら、歌詞を書かれているということです。だから、「死に行く鳥」はセーフだと思うけど、「遠距離恋愛」はセーフかどうか? 詳しく語られている8番目まで待ちましょう。
7番目『「金色夜叉」で何が悪い?』です。さらに歌詞解説は続きます。一流の方々の作品では語る方も教養が問われますよね? 先ほどはバレエでしたが、今度は小説『金色夜叉』です。持ってたのに、読んでいません。
Oさん:貫一、お宮ですね。私も読んでいません。熱海に行くと必ず像を拝むといったことしかやってない。反省・・・


——もうひとつ「なんで KinKi Kids が“船”なの?」という箇所、ここではジャニーズでも愛用されている森進一『冬のリヴィエラ』を思い出しました。「♪ 冬のリヴィエラ 男ってやつは 港を出てゆく 船のようだね 哀しければ 哀しいほど 黙りこむもんだね〜」です。作詞はもちろん松本隆、作曲は大瀧詠一です。
Oさん:なるほど。森進一さんの息子でもある森内君がまだ NEWSに所属していた頃は、彼がよく『冬のリヴィエラ』を歌っていました。ジャニーズと船はそれほど遠くないと感じますが、松本さんからしてみたら、今の時代に船はないだろう、ということなんですかね。



——普通は新幹線か飛行機で旅行しますから。J-POP で船の別れは珍しいんじゃないですか? ゆずの『さよならバス』とかバスはありそうだけど。
さあ、問題の8番目『“遠距離恋愛”はミスリード』。ここが最大のポイントでしょう! でも、今ひとつわかりにくいです。どうですか?
Oさん:『スワンソング』ってタイトルについてるんだから、遠距離恋愛の歌とは思わなかったですけどね。私は松本さんの解説を読んだ後、改めて歌詞を見直して、相手を尊重するからこその別れもあるよなぁということを思いました。それは逃げでもあり、後悔することでもあるから、やりたくないけど。ただ、それを表現したわけでもありません。実際、この歌から別れたのかどうかも、わからない。


——それは別れていますよ。「♪ ほんとうに終わりなの 君はコクリ頷く」ですから。でね、前回少し触れたんですけど、この「遠距離恋愛」のくだりが、今回のインタビューの理由だと思うんです。釈明会見ですよ!


  ♪ 辛いばかりだね 遠距離恋愛 
  楽しくないのに 続けるのは無理か


これはさすがにアウトでしょう! ジャニーズソングの範疇を完全に逸脱しています。コアなファンの間では、すべてを包み込むぐらいの受け止め方をされていたかも知れません。でも、『カウントダウン』で字幕を見ながら初めて聴い人にはショックを与えるような歌詞だと思います。どうですか?
Oさん:うん、そのシチュエーションではドキっ!とします。そう思います!


——いやいや、ジャニーズファンの女性は、少なからず疑似恋愛的な聞き方をしてるんじゃないですか? Oさんは違う?
Oさん:あ〜それはジャニーズが自分に対してメッセージを送ってくれるということですよね? 疑似恋愛的だとしても、私は実際に自分の身近な人を想定して聞きます。


——まあ、人それぞれですか。前回話した『 KinKi you コンサート。』では、アンコールで『もう君以外愛せない』を歌う前に、「ファンの人たちに対するラブレター」だって言ってましたよ。
Oさん:思い出した! 10代の頃は、岡本健一にそう言ってもらえると、すごーく嬉しかったし、勘違いもしたかもwww 全ジャニーズがコンサートでは当然、ファンに向けてそう言うし、歌詞もそんな感じだけど、私はもうジャニーズタレントに対しては、妄想は抱かない人間になっています。でも思い出したからには、ファンとして、これからはその世界にもう一度戻ってみますっ。


——たぶん、疑似恋愛的に聴く経験は誰しもあると思うんです。それだけに「辛いばかりだね 遠距離恋愛」は酷いと思ったわけです。劇薬ですよ。でも、この歌詞こそが松本さんのキンキへのメッセージなのかも知れません。「君たちはアーチストなんだから、疑似恋愛に頼ってはいけない」という。これはさすがに越権行為なのではないかと思うんですけど、、、、
さらに2番の「♪ ほんとうに終わりなの 君はコクリ頷く」です。実は松本さんのキンキの曲で2人の会話が成立してるのってこれだけなんですよ。ほとんどは男側からの心情告白だけです。例えば、『薄荷キャンディー』でも、「君しか見えない ほんとうだよ」と言っても、相手からの返答は出て来ません。ちょっと、調べてみてください。
Oさん:・・・歌詞、調べてみました。確かに、1人で勝手に言っているだけ、つぶやいているだけの歌詞ばかりですね。


——だから、「キンキ解散説」を私は書いたんです! でも、今回のインタビューで理解できました。すべては『硝子の少年』をもう一度という依頼が来たから起こったことだったんです。それが異常とも言える緊張感を『スワンソング』に与えたんでしょう。
Oさん:改めて整理すると、『硝子の少年』から年を追うごとに成長してきた松本さん提供のキンキ作品だったのに、『スワンソング』でまたスタートに戻されてしまった。糸がプツッと切れてしまった感じかな。



——でもね、たしかに、リセットはされたんですけど、それだけじゃないんです。さっきの「♪ ほんとうに終わりなの 君はコクリ頷く」がなぜ書かれたか? これも『硝子の少年』と比較すればわかります。出だしの歌詞「♪ 雨が踊るバス・ストップ 君は誰かに抱かれ 立ちすくむぼくのこと見ない振りした」と、相手にされなかった状況が書かれています。でも、今回は終わりはしたけど、2人の関係をちゃんと築けていた。これは成長を表現した歌詞だったということです。
Oさん:本当だ! しっかり成長が見て取れます。


——『硝子の少年』で少年時代が終わり、『スワンソング』で20代が終わった。じゃあ、ここからどうするか? そのあたりが「30枚目のシングルに注目して待ちたい」と私が書いた理由なんです。まあ、ジャニーズサイドはこのまま普通に継続するのかも知れません。でも、今後、松本隆さんが書くのかどうか? 気になるところです。私としては松本さんが書く幸福な結末が見てみたいです。そして、その可能性はあるんじゃないでしょうか?
「女の子は桟橋を走っていって、走っていって、その端で膝を折って泣いてるわけだけど、そこは飛び立つ白鳥が重なっている」という発言がありました。おかしいですよね? 『瀕死の白鳥』じゃなかったのか? 今度は『硝子の少年』の最後の歌詞を見ると理解できます。


  ♪ 硝子の少年時代の 破片が胸へと突き刺さる
    何かが終わってはじまる 雲が切れてぼくを 照らし出す
    君だけを 愛してた


どうですか? 「硝子の少年」は死んでるでしょう? 胸に破片が刺さってますからね。『スワンソング』のテーマも「硝子の少年」ですから、辛い別れが再生へと繋がっていることがわかると思います。『スワンソング』の歌詞は白鳥が死んでるだけにも見えますがw 少なくとも松本さんが込めた「真意」はそう理解するべきなんでしょう。
Oさん:そうですね。言い方は悪いけど、『スワンソング』の後は、少年・青年時代を過ぎたキンキの“これから”に向けての幸せな再生を期待したいです。そもそも「瀕死」というのは、死にかかっていることで、死んではいませんから。


——でも、死ぬ瞬間までもがくからこそ美しいんだと思いますよ。グッタリしたまんまだとねえ? 『瀕死の白鳥』は死ぬとこまでなんでしょう? 死んでない?
Oさん:『瀕死の白鳥』は最期は、死までです(そのはずです)。もがき続けていたら、それは美しいどころか、醜くなってしまいます。


——ですよね。で、やっと最後まで来ました。9番目『スワンソングに込められた真意』です。昨年11月に『スワンソング』を語ったときに、「♪聞いて私たち 生きてる重みは 自分で背負うの 手伝いはいらない」という歌詞は誰が言ってるのだろう?という話をしました。そのときは「キンキ? キンキのファン? それともカモメか?」と話していたんですけど、どうやら登場人物の女の子らしいです。そして、松本さんの真意としては、若い人たちへのメッセージで「お互いに甘えるな」と。うーん、、、、かなりハードなテーマですよね?
Oさん:直接的に「頑張れ」とは言わなくても、そっと背中を押してくれているイメージでしょうかね。これを読んで「痛いメッセージ」というのはわかっても松本さんの解説を聞かなければ全く理解できません。その“若い人たち”にはキンキも入っていると思いますか?


——入っているでしょう。キンキのファンだけでなく、キンキも。そして、松本さん自身、ジャニーズ、小杉さんも含まれてると思うんですよ。なにかと言うと、「大人はどうあるべきか?」というテーマがあると思うんです。これはキンキの2人が30歳になったこともあります。それだけでなく、松本さんがキンキの成長とともに歌詞を書いて来て、それを壊す依頼が今回来たと。でも、プロとして大人として責任を果たした。まあ、それぞれに「生きてる重みは自分で背負うしかない」という諦念のようなものも感じたんです。
Oさん:うーん、そうか。松本さんも、自身で課したテーマに悩み苦しんだ様子を、解説で書かれていますもんね。


——さあ、そろそろ今回の締めに入りましょうか? Oさんは『スワンソング』好きですか?
Oさん:困った質問ですね。正直言うと、好きではないです。キンキの松本作品では、一連の流れから言うと成長しきった(はず)の、『薄荷キャンディー』に一番心が惹かれます。ファンとしては、こう言ってほしいという願望をストレートに表現しているからです。単純なんです。『スワンソング』は歌詞を読むととても美しいのですが、やっぱり辛い。ただ、松本さんの解説を読んで、これまでの『スワンソング』への気持ちが私の中で変わりました。少しは『スワンソング』を理解できそうです。そんな人、多いのではないでしょうか?


——私は好き嫌いを超えて特別な曲って感じですね。でもね、キンキと小杉さんは勝利したと思うんです。『硝子の少年』というテーマは禁じ手だったんですよ。マッチさんの『スニーカーぶる〜す』を元にした、『硝子の少年』の続編とも言うべき曲がありました。康珍化さん作詞の『雨の Melody 』です。これに松本さんが激怒したこともあったんです。そのあたりは「ジャニコノ18」に書きました。



◉ジャニコノ18. 少年隊『 君だけに 』
http://d.hatena.ne.jp/wakita-A/20090925/1253892985
松本隆さんの作詞活動30周年を記念して発売された作品集『風街図鑑』のブックレットには、収録曲について本人のコメントが掲載されています。その中の小泉今日子『魔女』だったか『水のルージュ』だったかの箇所に、凄いコメントがありました。私の記憶では「康珍化の作詞した『ヤマトナデシコ七変化』や『渚のはいから人魚』だけど、あんなのは 僕が はっぴいえんど でさんざんやってきたことだ」という意味の発言があったのです。たしかに、康珍化作品には、他から持って来たテーマもあるように思います。ですが、松本さんがこのような激しい発言をされているのには、小泉今日子作品とは別の理由があります。恐らく『風街図鑑』が発売される2ヶ月前に KinKi Kids雨のMelody 』が発売されているからでしょう』


Oさん:小泉今日子を引き合いに出して、『雨のMelody』は『硝子の少年』から引っ張ってきたってことで、この作品を暗に否定しているんですね。


——だと思うんです。普通、自分の記念ボックスで他の作詞家をこきおろすってないでしょ? 理由を考えたときに、『雨のMelody』に行き当たったんです。『スニーカーぶる〜す』の「♪ 街角は雨 ブルースのようさ 胸でファズギター かきならすようさ」をモチーフにして『雨のMelody』は書かれています。康珍化さんには小杉さんから『スニーカーぶる〜す』という注文があったと思うんですけどね。
Oさん:ああそうか、よくわかりました。『雨のMelody』も『硝子の少年』の続編に位置づけるなら、どれも「王道」です。わかりやすいのはいいけど、わかりやすすぎてもダメですね。


——松本隆さんは『スワンソング』の締め切りを2週間延ばしてもらったと言っています。そして、スケジュール的にぎりぎりで送られて来たのがかなり重い毒を含んだ歌詞だったわけです。小杉さんはこれによく Goサインをだしたと思います。スケジュールがぎりぎりだからという理由ではないでしょう。松本さんの歌詞の毒が KinKi Kids を殺しかねないものだと気づいていたはずです。はっきりと普通じゃない歌詞ですし。その判断は一種の賭けだったと思います。それでも、いまのキンキにはその毒が必要だったんです。
少し長くなりますが、私が最近のキンキについてどう思ってたかを書きます。東方神起が登場して以降、キンキの楽曲が古びて聴こえていました。一応チェックはしていましたが、あまり新鮮味を感じませんでした。でも今回『スワンソング』をきっかけに、もう一度キンキの楽曲を聴き直しました。本当に名曲が多い。わかっていたことですが、もう一度確認する機会を得たということです。松本さんの毒が私の中のキンキを再生させてくれたんです。『 KinKi you コンサート。』の DVD に感動できたのも、内容の素晴らしさもさることながら、『スワンソング』でリセットされていたからというのが大きいと思うんです。『スワンソング』というキンキの名曲がまたひとつ増えました。そして、30枚目のシングルがどうなるのか? 本当に楽しみです。待っています!