ハノイの日本人

アイドル、ジャニーズ、サッカーなど。

トランプ詐欺2、脱出編。


前回のあらすし。wakita-A がホアンキエム湖のほとりを歩いていると、フィリピン人姉妹が寄ってきて話しかけられた。妹が埼玉大学に留学するから会って欲しいと言われ、タクシーに乗って彼女らのホテルに向かった。そこでは妹ならぬ弟がでてきて、お前に100%勝たせてやるから、カジノに行こうと誘われた。さて、どうやって脱出すればいいものか?


◉トランプ詐欺にご飯をたべさせてもらう。
http://d.hatena.ne.jp/wakita-A/20080621/1214038330


弟は慣れた手つきでトランプを配りだした。ゲームはブラックジャックらしい。何枚かのカードを配り、21を超えることなく一番近い方が勝ちというシンプルなルールのゲームだ。21を超えると「ブタ」と言い、即負けとなる。弟は説明するとき確かに「ブタ」と言った。これまで何人の日本人に説明したのだろう?


例えば、2枚のカードをもらってその数字の合計が15や16だったりするとき、もう1枚カードをもらうかどうか?迷うところだ。2や3がくればいいが6以上がくれば「ブタ」となり負けてしまう。駆け引きがメインとなるゲームなのだ。弟は自分に2枚、私に2枚配りオープンしながら説明して行く。そして、「ここからが重要だ」と真剣な顔をして言った。これから彼の「100%勝てる方法」というのを披露してくれるつもりらしい。


トランプの束からA(21を超えない範囲では11とカウントされる)と絵札(すべて10とカウントされる)を抜き出した。そうしてから、再びトランプの束に戻してシャッフルした。そして、2枚づつのカードを4組、テーブルに置いた。弟は私の顔をじっと見て、「お前がカードをあけてみろ」と言った。


ひとつ目、Aとキング、21だ。弟はニヤリと笑って頷いた。「お前の勝ちだ!」。2つ目、3つ目、これらもまた21だった。弟は得意げに「100% Win!」と言った。もうわかった。4組目も21で、「オレにかかれば、トランプの手札も自由自在だ」と言いたいのだろう。軽く手を叩いて、褒めたたえた。これから100組の21をだされたとしても、私はカジノに行くつもりなんてない。しかし、弟は執拗に4組目もあけろと促してくる。仕方がないので4組目もあけた。ゲームというのは、サッカーでもトランプでも同じだ。あけてみるまではわからないものだ。みなさんも最後まであきらめちゃダメですよ! 開いたカードは A と3。大失敗。ほんま、びっくりするわ。


さすがに気まずかった。友人が得意げに披露した手品が失敗してしまったような笑うに笑えない感じ。でも弟はさすがだ。一瞬固まりはしたが、何事もなかったようにトランプを片付けた。その様子がまたおかしかったのだが。早くここから脱出して思いっきり笑いたい、それだけを思っていた。


◉弟は「オレはかわいそうな子供たちを助けたい」と言った


弟はそれでもしつこくカジノに誘った。この仕掛けはカジノ自体もグルで、お前はただゲームに参加さえすれば100%勝てるんだ。紙にカジノの取り分、自分の取り分、私の取り分と書き込んで行く。そして、最後にまた「100% Win!」と力強く言った。このままこの話を聞いているのもつらくなってきた。だから私も反撃にでることにした。


「あなたは100%勝てると言うが、私が知ってる言葉にこんなのがる。ハイリスク、ハイリターンだ」。それに対して、「ハイリスクってなんだ?」と弟はびっくりするように言った。それは「自分が詐欺師だとバレてるのか?」とでもいうような驚きの表情だった。「いやいや、これはマーケットのルールなんだ」なぜか私の方が慌てて弁明した。できるかぎり静かに脱出したいと思っていたからだ。


しかし、弟はあっさりと引いた。カジノのことは諦めたらしい。そして、これまでとは違ったリラックスした感じで、「こっちの部屋を見てくれよ」と言った。奥の部屋には先ほどの姉妹がソファーに寝そべってくつろいでいる。弟はなにか額のようなものを指差し、なにかを説明していた。私はその話がまったく耳に入らず、姉妹が見ているテレビに釘付けだった。40インチはあるだろうか、、、美しい新品のLG製テレビがそこにあった。姉にいいテレビだなと言うと、「そうでしょう! この前買ったばかりなの」と心からうれしそうな顔を見せた。少し複雑な表情で私も相づちをうった。やっぱり、トランプ詐欺でダマされてる人がけっこういるということか。


元のテーブルに弟と私は戻ると、姉が私の隣に身体を寄せるように座ってきた。しまった! 口にださずにつぶやいた。後ろには壁があり、これ以上イスを引くことができない。出口をふさがれてしまった。弟はそれを確かめると満面の笑みでテーブルにエアメールの封筒を置いた。「なんだろう?」と思っていると、「フィリピンにはたくさんのストリートチルドレンがいます。私はその子たちを助けるためにいつもお金を送っています。ドネイション!」と説明しました。そして、「ドネイション」という言葉を繰り返します。それってなんだ?


ドネイションは寄付という意味らしい。こいつらが寄付するわけなんてないんだけど、まあ、飯もくったし、コーラも飲んだし、面白い話も聞けたから、、、、5万ドン(300円)くらいなら払ってもいいかと計算した。そして、お金をだすためにということで、姉をどかせて席を立ち5万ドンを封筒に入れた。


実に計算された詐欺であることに私は感心していた。真面目にギャンブルでの儲けを断ってくる人間には、寄付をしろと迫ってくるのだから。これなら、少しくらいダマされてやろうかと思う人がいてもおかしくない。現に私はそうしたのだ。


しかし、弟はこれを受け取ろうとしなかった。そして、「お前はなんてヤツだ。いまも困っている子供たちがいっぱいいるというのに、そんな小さな額しかだせないのか?」と言ってきたのだ。つづけて姉が大声をだした。「さっきポケットから10万ドンのお札が見えたわ!」。もう、どうしようもないヤツらだとあきれながら「だったら、返せ!」と怒鳴って封筒から5万ドンを取り返した。そして、その勢いで出口に向かった。


止められるかと思ったが、彼らはすぐに「いいんだ、いいんだ」と言って、あっさり見送ってくれた。まあ、このホテルの場所を私は知っているのだから、通報されることを恐れたのかもしれない。でも、最後は拍子抜けだった。最後まで読んでくれた方、ありがとう。みなさん、今回の教訓です。「妹」という言葉にふらふら着いて行くと、いつか痛い目を見るぞ!