ブラジル戦の次の日、友人たちと別行動を取ることにしました。ブラジル戦では席が離ればなれだったので、スタジアムの外で待ち合わせをしていたました。ですが、彼らはなかなか出て来なかったのです。聞けば「ヒデが泣いてたんだよ」と言うのです。私は選手たちがゴール裏に挨拶しに行くとこは見ましたが、少し離れていたので 中田 がいないことまでわかりませんでした。まあ、敗戦もあり、そんなこともあり、宿泊施設が寒かったこともあり、翌日、ちょっと険悪なムードになったので別行動を取ったのです。
航空券は安いチケットなので日にちの変更はできません。でも「日本がでるはずだった」決勝トーナメントの１回戦まで５日もあります。また、アムステルダム に向かいました。ところが、アムステルダムの安いホテルは午前中だけで満室になってしまうのです。いつも泊まるホテル街に行きましたが、手遅れでした。しょうがなく、駅前のツーリスト・インフォメーションでホテルを紹介してもらうことにしました。すでにかなりの行列ができています。１時間ほど並びました。そして、アムステルダムからさらに30分ほど南に行った小さな街のホテルを紹介してもらいました。
運河と風車があるのんびりとした雰囲気の街 ライデン でした。レンブラントの生誕地で、ちょうど「生誕400年祭」が行われていました。ホテルで日本人家族と一緒になりました。父親と娘と息子です。息子さんはサッカー選手を目指している中学生で、彼のランニングや練習に少し付き合いました。お姉ちゃんは仕事がうまく行かなかったり、父親とうまく行かなかったりで、悩んでいるようでした。一緒に マウリッツハイス美術館 にも行きました。『真珠の耳飾りの少女』を観に行ったんです。
この親子と一緒にケルンで行われる スイス VS ウクライナ を観に行くことになりました。もちろん、ケルン大聖堂も見ました。駅前にどーんとあるのでびっくりしました。ところが、試合の方はスタジアムに行く途中で迷ってしまい、諦めてカフェで観戦しました。次の日はドイツ最終日です。ドルトムントで ブラジル VS ガーナ を観て帰ります。ところが朝になって事件が起きました。
息子は週末のサッカーの試合にでないと行けないが、練習からでないと出場させないと監督が言う。だから、いまから日本に帰る。父親はそう言うのです。もともと、数日後には一旦帰国して、また、ベスト４あたりでドイツに戻る予定だったそうです。お姉ちゃんはその間パリで過ごすことになっていました。父と息子が帰るということは、お姉ちゃんと私の２人きりになるわけです。ケルン大聖堂でお祈りしたおかげかもしれません。ドルトムントの駅前で２人分の試合のチケットを入手しました。しかし、２人のそんな雰囲気を見て父親が怒りはじめました。もの凄い勢いで娘を罵倒します。そして、ついに飛行機のチケットを破り捨てたんです。彼女は「きょうは誕生日なのに最悪だ」と言って泣いていました。
刻々と試合の開始時間は迫っています。父親が試合を観ると決めたときには、試合開始まで１時間もありませんでした。席はもちろん離れています。路面電車に乗り、スタジアムに着いたとき、ちょうどモニターで試合開始のホイッスルを聞きました。最初の ロナウド のゴールを見逃しました。それでも彼女が元気になってきたので、試合を楽しむことにしました。試合が終わり父親と合流する前に「日本に帰ってからも会おうよ」と言いました。ですが、待ち合わせ場所でまたケンカになってしまったんです。待ち合わせ場所は仮設のテントだったんですけど、それが試合後には撤去されていたんです。それで携帯で電話したり、私が探しに歩いたりしました。やっと出会えたと思ったら「お前たちは２人きりになりたくて隠れたんだろう！」と言われました。それで、とうとう私がキレて、ケンカになってしまいました。
駅に着いたときには父親も落ち着いたようで、「一緒にホテルを探そう」と言ってきました。ですが「すみません。私は明日帰国なので、もう空港の近くまで行きます」と言いました。彼女は寂しそうな顔をしていました。結局、それっきりになってしまいました。帰りの列車では中国人記者がたくさん乗っており、大声で話す、寝たら大いびきをかくと「ワールドカップに出場してないくせに！」大活躍でした。
ワールドカップではいろんなことがあります。ただ、サッカーを観るだけではありません。食べ物や、観光や、出会いや、いろんな楽しみがついてくるんです。ワールドカップの時期は、当時の自分を振り返る機会にもなります。もう人生の一部になっているんです。そんな人々がたくさんいます。一部の人たちの利権のためにやってるとは思いたくない。そんなことを考えながら書きました。明日から南アフリカに向けて出発します。終わり。
