ハノイの日本人

アイドル、ジャニーズ、サッカーなど。

北京在住 青木さんのインタビュー。前半

7月にこの blog を見てメールをくれ、ハノイに旅行で来られたときに会った 北京在住の 青木裕一郎さんにインタビューしました。今回の前半では青木さんの北京生活がどのようなものかを聞いています。また HIPHOP DJ QingMu としての活動についても聞かせてもらいました。


——青木さんは北京で生活されています。何年目ですか? なぜ 北京に住もうと考えたんですか? 
青木:北京は3年目です。中国語の響きに憧れて2007年3月から黒龍江省のハルピンで普通語の語学留学をしていました。そして、2008年の北京オリンピックを機会に何か中国語を使った仕事があるのでは? と思い上京しました。


——そう言えば、会った時に ジーコ監督時代の アジアカップの話をされていましたね。川口が PK戦で大活躍した大会です。
青木:2004年7月に初めて中国大陸を旅行しました。北京滞在中に安宿のテレビで「中国 VS 日本」が北京で行われるということを知りました。プレミアチケットだったのでダフ屋で200元(3000円))のチケットを倍の400元(6000円)ぐらいで購入しています。


——大金だなー。まあ、決勝戦ですもんね。当時は、反日感情が強く、日本ではかなり危険だと報道されていました。
青木:宿の連中と一緒にほっぺに日の丸ペインティング(外務省から禁止が勧告されていました)をして北京の工人体育館に行きました。途中で中国人サポーターに囲まれて危うい一幕もありました。しかし、若い中国サポーターからは一緒に記念写真を撮ろうと言われて、ほのぼのした雰囲気もありました。写真は一番左が僕です。



——そうなんですよね。サッカー好きには日本のファンも多いんですよ。
青木:スタジアム内ではチケットの場所やランクも関係なく、日本人は強制的に一つの場所にまとめられての応援でした。周囲は中国人公安が3重になって中国人サポーターから守ってくれていました。


——ある意味うらやましい。私はそこまでのアウェイを体験したことがないので。
青木:試合終了後から中国人サポーターがいなくなるまで待つことになります。理由はスタジアムの外で中国人たちが反日暴動を起こしているからでした。蒸し暑い中、2、3時間ぐらい待たされたためか、日本人サポーターもイライラしながら中国人警官に八つ当たりしている場面もありました。またそれを止める別グループの日本人サポーターもいたりと、待機時間の後半はなかなかのカオス状態でした。


——たしか最後はバスで送迎ですよね?
青木:政府側から臨時バスが提供されて、安全な場所まで移動し、そこからはタクシーで宿まで戻りました。


◉アジア杯試合後、群衆が日本チームのバス取り囲む 北京
http://www.asahi.com/sports/soccer-japan/asia-cup2004/TKY200408070287.html
『サッカー・アジアカップの日中決勝戦北京市の工人体育場で7日夜、厳重な警備態勢のなかで行われた。これまでの試合で、中国人観客が反日的行為を繰り返してきたことから、中国政府は開催国のメンツをかけて治安対策に力を入れた。だが、日本の勝利で試合が終わると、中国人観客から日本のファンへ向けて物が投げ込まれた。試合後も、会場の外のあちこちで数千人単位の群衆が騒ぎ、日の丸を焼いたり、日本チームのバスを取り囲んだりして騒然とした状態が続いた』


——アウェイ満喫w 試合は楽しかったですか?
青木:試合自体はあんまり覚えていませんw


——3−1で日本が快勝! アジアカップ2連覇を果たしています。現在の北京では 反日的な雰囲気もないんでしょう?
青木:2004年ぐらいはちょうど小泉首相が毎年の靖国参拝が表面化した年でした。現在では日本への反感はほとんど感じません。むしろ中国人による「嫌韓」が目立ってきていると思います。


——そうかー、今年は閣僚の参拝がゼロみたいですしね。北京は住みやすいですか?
青木:北京市内は治安も良く、中国のなかでは非常に住みやすい場所だと思います。外国人も多く滞在しているため、北京人はとても外国人慣れもしています。家賃は3800元(約5万円)で3LDKを借りて、北京人2人と僕を合わせて3人でルームシェアをしています。僕はやや大きめの部屋を使わせてもらっていますので毎月1350元(18000円)を負担しています。


——じゃあ、けっこういいところに住んでいるんですね?
青木:大きいといっても僕の部屋は7-8畳ぐらいなんです。僕が住んでいる東四十条は北京のほぼ中心なので一部屋18000円は家賃がまだ安い方かもしれません。


——シェアメイトはどういった知り合いなんですか?
青木:シェアメイトは 2003、2004 と DMC を獲っている DJ Shorty-S です。ちょうど2004年のアジアカップがあったときに北京での DMC China の最終決勝を見に行きました。

DMCターンテーブルを楽器のように操り、アナログレコードを現場で編集し6分間の作品で競い合うDJ大会



青木:優勝した彼にメールアドレス入りの MIX CD を渡したのがきっかけです。彼から中国語でメールが来たのですが、当時中国語は全くできなかったので英語で返信したら、連絡が途絶えちゃいました。2007年の ハルビン留学中に 覚えたての中国語でメールを送ったら返信が来て、2008年 北京に入ったときに再会しました。今では彼と彼の友人と僕の3人でルームシェアしています。


——中国だと食事に困ることはないですよね? 普段はどうしてるんですか?
青木:食事は主に自炊です。家の近くに野菜市場がありますので、新鮮なものを選らんで中華や日本料理を作っています。忙しいときは外で済ませるときもあります。


——中国人は外食が多いって聞いてたんですけど、わざわざ自炊している理由があるんですか?
青木:来たばかりのときは庶民的な外食で済ませる方が多かったのですが、中国生活が長くなってくると、衛生面や油の多さが気になったりして、また食費削減も考えて自炊するようになりました。


——なるほどー。
青木:また、自分の交渉一つで値段を動かしていくのは中国生活では不可欠の術です。その感性を磨くためにも市場で自分で手に触った野菜を交渉して買うのは、中国ならではですよ。


——やっぱり 言葉は大切ですね。北京の生活でおいしい食べ物はなんですか?
青木:北京に限ったことではないのですが、北方人は南方に比べて新疆ウイグル料理好んで食べるのでレストランがたくさんあります。


——ウイグルチベットの北あたり。独立運動で話題になるところですよね?
青木:そうです、国内で政治的な問題はあっても、良い点はしっかり認めています。日中間で問題があったときも、日本アニメなどの良質コンテンツは受け入れられていました。
実際にウイグル料理は羊肉をメインとしていますが、独特な香辛料を使うことで羊の臭みが消えてとてもおいしいですよ。パスタに似ているメニューもあるため欧米人にも人気みたいです。


——そうなんですか。初めて聞きました。逆に北京の生活で困ってることはありますか?
青木:日本で働いている人と比べてまだまだ収入が少ないことです。中国国内では中間水準としてそれなりに充実してやっていけますが、日本に帰省するとなるとなかなか大変です。


——それはありますよね。日本はいい物も多いけど、値段も高い。
青木:これから人民元は切り上げが進んで価値が上がっていくと思いますが、同時に世界的な景気後退から円高も進みそうなので、日本円も稼げるしくみをつくっていきたいですね。


——仕事のことも聞いて大丈夫ですか? 可能な範囲で聞かせてください。
青木:今は北京にある香港系金融会社で翻訳家としてパートタイムで雇っていただいています。同僚の中国人が株・為替動向の分析をしてくれてそれを日本語に翻訳しアップロードしています。ウェブを使った仕事ですので比較的場所の自由が利きます。


——そうか。旅の間にも仕事をしていたんですね?
青木:そうです。月—金 の朝は毎日更新してページを維持しなければなりません。


——ネットさえ使えれば、どこでも仕事ができるんですね。凄いなー。上海万博後の中国の景気については、現地ではどのように語られているんですか?
青木:上海万博後というと何ともいえませんが、金融危機で米国や欧州が転げてからは中国がハブとなり東南アジアや中東、アフリカなどが生産・消費を形成していくとの見方が強いです。


——中華思想だw たしかに、日本や欧米では「中国がこけたら…」と語りますが、周辺国での中国の影響力は日増しに高まってますもんね。
青木:特に資源や市場が未開拓であるアフリカに中国はかなり力を入れているのはテレビニュースからでも十分伝わってきます。日本ではアフリカというと可哀想な援助場所ですが、中国では対等なビジネスパートナーとして見ています。


——長期的な戦略があるってことですよね。なるほど。仕事以外の時間はなにをしていますか?
青木:友人とDJスクールを開校し、パフォーマンスや講師としても働いています。


——青木さん自身も HIPHOP のDJ なんですよね? 北京のクラブカルチャーは盛んなんですか?
青木:高校のときから HIPHOP が好きで、DJ を続けています。北京はラッパーがけっこう集まってきています。天候がニューヨークと北京が似ているせいなのか、Wu-tang のようなスモーキーな音でラップするアングラシーンもあったりします。


——本当にカンフーやってたり?
青木:Wu-tang メンバーの一人 Ghostface killah が北京でライブしたときに、前座の北京若手MC Naughty Ray はヌンチャクを披露していましたw


Ghostface Killah 2009中国巡演--北京(ft. Naughty Ray)
http://v.youku.com/v_show/id_XMTQ5OTA0MDY4.html


青木:そういえばちょうど今、中国語RAP のコンピレーションを製作中です。日本語訳をつけたり、ライナーノーツを書いています。「韻踏む中国人」というタイトルですけど、まだ出来上がっていません。


——プロデューサーってことですか?
青木:自主制作なのでやりたいようにやらせてもらってます。無料でダウンロードさせてもらったものですし、無料ダウンロードで流通させたいなと。
中国には宋時代から詩人たちが巧みに韻踏んできた歴史があります。それが今では、80后(1980年以降に生まれた中国人)たちを中心となって、米国発 HIPHOP との接着が始まっています。


——20代が中心なんですね。日本との違いはありますか?
青木:日本では DJ は趣味の一環となっているため、パフォーマンスに対してお金を請求することは有名DJじゃない限り少ないと思います。しかし、中国ではどんなDJでもお金を請求するのが普通です。何億といる人波の中で あなたが今日のイベントで DJ として選らばれたことに価値があると中国人は考えます。
また、オーガナイザーからお金が支払われている以上、プレイヤーは場を盛り上げる責任感があります。そのため選曲が万人受けするような商業的になりやすいです。


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——食べて行ける DJ はどれくらいいるんですか?
青木:北京は大都会ですから、正直どれぐらいいるのか分かりません。中国人は踊るのが好きですから、商業的 CLUB が毎晩賑わっています。そういうのも入れると数百人ぐらいはいそうですね。僕みたいな外国人 DJ も多いですよ。
その点、日本では趣味の延長上のため個性やこだわりを持ったオーガナイザーや DJ が育ちやすい環境だと思います。中国は商業的なシーンがまず確立されるため、それに対するアンチが生まれアングラ層が自然に出来上がります。純粋で職人肌の日本では草の根のボトムアップで形成されるのに対して、中国はトップダウン式でサブカルチャーが作られていっているように思います。


——まさにカウンターカルチャーですね。では、後半は今回の旅について聞いて行きます。(つづく)