1995年、東京に行って１年目。仕事を辞めてぶらぶらしてたときに、音楽月刊誌『BAD NEWS』のHIPHOP特集を読んだ。そこで大きく取り上げられていたのが「雷（カミナリ）」だった。年末にクラブチッタ川崎で行われる２つのHIPHOPイベントで観れることを知った。日本語ラップのCDはほとんど全部買っていたが、イベントには怖くて行ったことがなかった。
１つ目は、雷、キングギドラ、ブッダブランド、ECD、ライムスター、SOUL SCREAM、ZINGI、MELLOW YELLOW、RIP SLYME、などなど、いろんなグループが出演するイベントだった。たしか、ブッダブランドがでてきたとき、DEV LARGEさんが観客に向かって「腕に自信がある奴は上がって来てマイク持てよ」と言った。「えっ？」って感じだった。ちょっと、ケンカ腰だったし、どきどきした。誰かステージに上がる人がいるのだろうか？と見回したが、やはり誰も上がらなかった。すると「なんだよ、誰も来ねーのかよ。じゃあ、始めるぜ」ってイントロが流れた。もうシビれた。かっこ良過ぎ。
２つ目は雷主催の『鬼だまり』というイベントで、開場時にアンケートが配られた。そのとき私は、自分が仕事を辞めて、これから何をしていいかわからないというようなことと、最後に「リアルってなんですか？」と書いた。いま、HIPHOPで凄いことが起こっていることはわかったし、彼らが言っている「リアル」には実体があるようにも思えた。でも、自分にはまったくわからなかった。
私の記憶では最初にDEV LARGEさんともう一人誰かがステージに現れ、観客を煽りに来た。その去り際に「リアルってなんだろうな？」とDEV LARGEさんがつぶやいてくれた。もちろん、一生懸命にやれることを自分で探すしかない。音楽に価値なんてないと言う人もいるけど、私はいろんな物をもらったし、今でも大事にしてる。DEV LARGEさん、ありがとう。
◉宇多丸が語る MAKI THE MAGIC追悼イベントで起きた『マジック』
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