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ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』解読、後半。

 

 

ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の解読をする前に、第1話でも書いたことをもう一度書いておきます。映画『花束みたいな恋をした』もそうでしたが、坂元裕二脚本の最近のドラマには、視聴者が観ているラブストリーとは別に、もう一つの物語が存在します。映画ではそれをイヤホンの右と左で違う音楽が流れているという、冒頭のエピソードを使って告白しました。だから『最高の離婚』にも『カルテット』にもそれは存在しています。では、今回の『大豆田とわ子と三人の元夫』は何を描いていたか? まずは主要人物のリストを観てください。前半は以下のリンクから。

 

 

◉ 主要人物

大豆田とわ子(松たか子):広告代理店、テレビ

田中八作(松田龍平):国民的スター

佐藤鹿太郎(角田晃広):お笑い芸人

中村慎森(岡田将生):教養バラエティに出演するような先生

小鳥遊大史(オダギリジョー):NETFLIXAmazonプライムなどのサブスク

 

登場人物がそれぞれ象徴するものをリスト化しました。もう、これを観ただけで、読むのをやめてもいいですよ。恐らく、同じドラマを観ても全く別の物語が浮かび上がるはずです。この週末、U-NEXT にでも課金して、もう一度最初から観てください。

 

一応解説書きます。このドラマは映画『花束みたいな恋をした』と同じようなテーマを扱っているんです。その映画にはラブストーリーともう一つの物語がありました。サブカルチャーのクリエイターとそのファンの関係が、出会いから蜜月にいたり、そして、終わりを迎えるまでです(ここでもオダギリジョーが登場していましたね)。今回のドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』では、テレビのこれまでの変遷が描かれています。

 

まず、大豆田とわ子の最初の夫、松田龍平演じる田中八作。彼は国民的スターです。誰からも好かれます。好かれすぎて困ります。60年代、70年代はスターの時代だった。しかし、スターが本当に好きなのは映画です。テレビが下に見られていた時代。最後の国民的スターSMAP木村拓哉を連想させるエピソードも登場しています。松たか子との共演も多いですよね。八作が好きだった相手、綿来かごめは、マンガ家を目指していました。自由や繊細さを象徴する人物です。その人物が死んだことは、『花束みたいな恋をした』で菅田将暉が演じる麦が消耗して行くのと重なります。その理由は IT革命でしょう。ギャラが急激に下がりました。そのことは後で書きます。

 

次、東京03角田晃広演じる2番目の夫、佐藤鹿太郎。彼はお笑いの時代を象徴しています。80年代には漫才ブームもありました。その時代に中心的な役割を果たしたフジテレビには「たのしくなければテレビじゃない」というキャッチフレーズもありました。そして、明石家さんまを筆頭に、ドラマ出演も成功させて行くのです。また鹿太郎はカメラマンでしたが、これはお笑い芸人が映画を撮ることを表現しているのでしょう。

 

 

岡田将生演じる3番目の夫、中村慎森。彼の職業は弁護士です。そう言えばもうわかるのではないでしょうか? 代表的なのは『行列ができる法律相談所』です。弁護士が人気タレントになりました。でもそれ以前から教養バラエティの人気は高まっていましたね。『行列』自体、NHK大阪制作、土曜昼の人気番組『バラエティー生活笑百科』にヒントを得た番組です。あと大事なこと。テレビ番組のコンプライアンスが厳しく言われる時代も象徴しているでしょう。テレビにとって難しい時代になっています。

 

最後に、もう一人の重要人物、オダギリジョー演じる小鳥遊大史。彼はなんでしょう? その前に強烈な存在感を放った登場人物がいました。しろくまハウジングを経営危機に陥れた人物、スカパラ谷中敦演じる門谷です。門谷と小鳥遊は IT革命を象徴する人物でしょう。1996年にはソフトバンク孫正義はオーストラリアのメディア王マードックと組み、テレビ朝日の買収を計画しました。2005年にはライブドア堀江貴文によるフジテレビ買収計画もありました。門谷という名前からすると、ライブドアの方でしょう。どうしてもゲス野郎にしなければならなかった。フジ系列で放送されてますからw 

 

とにかくテレビ局やそれと一心同体とも言える広告代理店にとって、IT革命は大きな影響を及ぼしました。そして現在、YoutubeNETFLIXAmazonプライムに代表されるサブスクによって、テレビは大打撃を受けています。決まった時間に決まった場所にいなくても、簡単に映画やドラマが観れるのです。というわけで、オダギリジョー演じる小鳥遊は、サブスクのことでしょう。テレビ局にとっては非常に厳しいが、視聴者にとっては快適。小鳥遊の極端な二面性はここから来ています。サブスクには数学、アルゴリズムが活用されています。大豆田とわ子も数学が好きだと言ってます。これは視聴率やマーケティングのことでしょう。

 

こんな感じでどうですか? 坂元裕二さんがこのような手法でドラマを書くのは、手癖のような物を排除するためではないでしょうか? 自分の持つ技術の外に出て新しい表現を手に入れる。オダギリジョーが会社で大豆田とわ子を恫喝するシーンとか、普通の手法では出てこないものでしょう。大笑いしました。

 

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