ハノイの日本人

アイドル、ジャニーズ、サッカーなど。

最初の女性アイドル歌手 南沙織。

アイドル歌手という言葉が普及するまでの年表をつくってみました。それまでは「青春スター」という言葉で呼ばれていたようです。ここでは主にアイドル歌手という言葉が作られた当時のことについて書くことにします。今回の教科書はこれ。下の動画は 吉沢京子沖雅也が出演したドラマ『さぼてんとマシュマロ』です。


歌謡曲――時代を彩った歌たち (岩波新書)

歌謡曲――時代を彩った歌たち (岩波新書)



◉ 1964年4月 男性週刊誌平凡パンチ』(マガジンハウス)創刊
◉ 1964年11月 フランス映画『アイドルを探せ』が日本公開
◉ 1965年5月 ザ・スパイダース『フリフリ』(クラウン)でデビュー
◉ 1969年6月 ドラマ『柔道一直線』(TBS)のヒロイン役で吉沢京子、人気アイドルに
◉ 1970年3月 女性週刊誌『an・an』(マガジンハウス)創刊
◉ 1970年9月 ドラマ『おくさまは18歳』(TBS)開始。岡崎友紀、人気アイドルに
◉ 1971年6月 南沙織『17歳』(CBSソニー)でデビュー
◉ 1971年10月 天地真理『水色の恋』(CBSソニー)でデビュー
◉ 1971年10月 オーディション番組『スター誕生!』(日テレ)開始
◉ 1972年6月 麻丘めぐみ『芽ばえ』(ビクター)でデビュー
◉ 1972年7月 荒井由実『返事はいらない』(東芝)でデビュー
◉ 1972年8月 郷ひろみ『男の子女の子』(CBSソニー)でデビュー
◉ 1972年11月 アグネス・チャン『ひなげしの花』(ワーナー)で日本デビュー
◉ 1973年4月 浅田美代子『赤い風船』(CBSソニー)でデビュー
◉ 1973年8月 フィンガー5『個人授業』(フィリップス)で大ブレイク
◉ 1973年12月 カラーテレビが白黒テレビの普及率を上回る



現在、最初の「アイドル歌手」は 南沙織 だと語られることが多いようです。しかし、南のデビュー前、すでに 吉沢京子岡崎友紀が「人気アイドル」と呼ばれていました。テレビドラマを中心に人気を博した彼女たちは、その主題歌などでレコードを出しています。それでも、最初のアイドル歌手は 南沙織だと言われているわけです。その理由はアイドル・ポップスがどのように定義されているかを知ることでわかります。


 ⇒アイドル・ポップスの最大の特徴は歌手も聴き手もティーン・エイジャーであることで、かつ同時に楽曲そのものに「世代」が大きく関係していることである。(P136)


「ティーン・エイジャーである」という箇所は現在の状況に当てはまりませんが、高さんはアイドル・ポップスが成立した当時の状況を鑑みてそのように定義されています。それまでの「青春歌謡」では、聴き手を限定するような歌詞は書かれておらず、広く大衆に向けて歌われていました。アイドル歌手とは、聴き手の世代を限定した歌を歌う歌手として登場したのでした。


年表を見てもらえればわかるように、60年代後半から70年頃にかけて大人でも子供でもない世代「若者」という消費者層が誕生したようです。そして、そこに向けて歌う歌手、アイドル歌手が誕生したわけです。その最初、南沙織についてはどのように説明されているのでしょうか? 



 ⇒発刊時の「an・an」は能動的なライフ・スタイルを総合的に提示した画期的な雑誌だった。(中略)南沙織荒井由美とは同年の一九五四年の生まれである。(中略)七二年デビューの荒井由美は「an・an」の自由な女性像を音楽化した最初の女性シンガーソングライターであり、「an・an」の若き女性像と岡崎友紀吉沢京子の新しいアイドル性を歌謡曲で融合させたのが南沙織である。(P130)



ちなみに、CBSソニー 酒井政利南沙織 のプロデュースにおいて「私小説路線」を確立したと語っています。私小説路線とは、タレントの「生地」を活かして行く方法で、タレントの等身大の成長を歌詞に取り入れて行くものでした。その路線はのちに、酒井がプロデュースする山口百恵松田聖子などにも活かされて行きますが、「南沙織が長女だとすると、長男は郷ひろみである」(『プロデューサー』2002年、時事通信社)と語っています。その歌詞を書いたのは 有馬三恵子でした。



南沙織 の登場の次に画期的だったのは、麻丘めぐみでした。高さんは3枚目のシングル『女の子なんだもん』(1973年)について以下のような文章を書いています。作詞はのちに 山口百恵『青い果実』や キャンディーズ『年下の男の子』などのヒットを放つ 千家和也 でした。


 ⇒「女の子なんだもん」の斬新さは聴き手を完全に「個」として捉えているところで、従来の自己の個をテーマにした作詞法とは完全に逆転の発想である。(中略)聴き手は歌い手(主人公)の心情や物語に感情移入するのではなく、歌われている世界に自己投影するわけで、これは歌謡曲のパーソナル化ともいえる現象で特筆に値する。(P106)


 ♪ 何も欲しくはないわ あの人がいるだけで
   女の子なんだもん おねだりはひとつ 愛して欲しい


この指摘は凄いですね。現在の宗教化とも言うべきアイドルシーンの原点がこの歌詞にあるわけです。今回はここまで。ここでは歌詞に限定して文章を書きましたが、南沙織郷ひろみ麻丘めぐみという名前で分かる通り、筒美京平 の作曲、編曲が アイドル歌手誕生に大きな役割を果たしたことは言うまでもありません。(つづく)



****************************

◉硝子の少年漂流記1977-1997

http://d.hatena.ne.jp/wakita-A/20130223/1361617804

リンク先は本の内容を紹介した文章です。

****************************